YouTube 出典:Lady Gaga
本日の曲:Lady Gaga, Bradley Cooper - Shallow (A Star Is Born)
劇中ではアリー(レディー・ガガ)とジャクソン(ブラッドリー・クーパー)が初めて共作した曲として、ライブ中での即興演奏シーンで登場するカントリー・ロック調の曲。2019年2月に授賞式が行われる第61回グラミー賞に主要部門の「年間最優秀楽曲」「年間最優秀レコード」をはじめ4部門でノミネートされている。
注目の映画『アリー/スター誕生』いよいよ上映開始
店番 :『マンマ・ミーア』や『ボヘミアン・ラプソディ』をはじめ、今年は音楽映画のヒット作が続きましたが、もうすぐ日本で公開される『アリー/スター誕生』も話題を呼びそうですね。
北中さん:すでにアメリカでは大ヒットしています。『ヴェノム』と並ぶこの秋冬のヒット作だそうです。かつてのヒット作のリメイクであることに加えて、主演がブラッドリー・クーパーとレディー・ガガ。世界一セクシーな男に選ばれたこともある俳優と、お騒がせなレディー・ガガという組み合わせも、興味を呼んだのでしょう。
この作品にはさらに意外な要素もあります。

主演で監督もつとめたブラッドリー・クーパー Photo: GabboT
店番 :といいますと?
北中さん:音楽でカントリー界の大物ウィリー・ネルソンの息子ルーカス・ネルソンが一部協力し、彼がバンド・メンバー役で映画にも出演しているんです。彼はニール・ヤングなんかとも一緒にやってきた人です。

良く知られてる?サングラス姿のガガ Photo: kindofadraag
ダンス・ポップのレディー・ガガ がカントリー?
店番 :カントリーですか?ダンス・ポップで注目されたレディー・ガガとカントリーって、普通に考えると、相性がよくないんじゃないでしょうか?
北中さん:ブラッドリー・クーパー演じるジャクソンがカントリー・ミュージックのスターという設定なので、そういう要素が必要だったのです。日本で言えば、Jポップの人気者が歌謡曲に取り組むくらいのギャップがありますが、あえてそれを演じる冒険をしたわけですね。
さっそく来年2月のグラミー賞に向けてノミネートされた「シャロウ~『アリー/スター誕生』愛のうた」は彼女とブラッドリー・クーパーがデュエットするカントリー・ロック調の曲です。映画では二人がはじめて共作して心を通わせていく設定の曲で、コンサート場面も見ものです。
店番 :テイラー・スウィフトはカントリーからポップに転身して成功しましたが、まさかその逆を狙ったわけではないですよね?
北中さん:彼女がカントリー歌手を目指すわけではなく、あくまでも映画の中の話です。映画の中で彼女はカントリーのスターと共演して注目されるんですが、新人としてデビューするときは、彼女らしいポップの分野です。サウンドトラック盤にはポップな曲も入っています。

ダンス・ポップのアイコンでもあるレディー・ガガ Photo: tamtam7683
設定を少しずつ変えながら何度もリメイクされてきた名作
店番 :この映画は名作のリメイクということですが、今回で何回目ですか?
北中さん:1937年のハリウッド映画『スタア誕生』が最初で、このときは映画スターをめぐる劇映画でした。その次はミュージカル化した54年の『スタア誕生』でジュディ・ガーランド主演でした。ジュディ・ガーランド、ご存知ですか?
店番 :名前だけ聞いたことがあります。
北中さん:ミュージカル・スター、ライザ・ミネリのお母さんで、出世作が『オズの魔法使』でした。今回のサントラ盤にそこから生まれた「サムホエア・オーヴァー・ザ・レインボウ(虹の彼方に)」が使われているのは、ジュディへのオマージュですね。

『オズの魔法使』のドロシー役で知られるジュディ・ガーランド(左) Photo: kate gabrielle
店番 :この曲は知ってます。有名な曲ですね。
北中さん:そして3回目がクリス・クリストファーソンとバーブラ・ストライサンドによる『スター誕生』で1976年でした。ここで物語の舞台が映画界から音楽界に変わります。クリスはカントリー系のシンガー・ソングライターですが、このとき演じたのはロック・スターでした。
話が長くなりましたが、そんなわけで今回が4回目にあたります。

バーブラ・ストライサンド 76年版『スター誕生』の主題歌で彼女が作曲して歌った「スター誕生の愛のテーマ」はアカデミー歌曲賞やグラミー賞最優秀楽曲賞などを受賞した大ヒット作。
Photo: Krishna
「あの物語」を今回は誰がどう演じるか?という楽しみ
店番 :そんなにリメイクされるくらいだから、ほんとに人気のある作品なんですね。
北中さん:ネタバレの部分もあるので、了解して読んでほしいんですが、ドラッグとアルコール依存症で下り坂に向かっているスターと、彼に助けられて成功への道を歩みはじめる無名のヒロイン、それを見守るスターの複雑な気持ち、という物語の大枠は、ある種、普遍的なものです。
歌舞伎やオペラの人気演目は、物語のてんまつを知っていても、みんな観に行きますよね。筋を知ってるからつまらないのではなく、「あの物語」を今度は誰がどんなふうに演じるのかという楽しみがあるからで、『アリー/スター誕生』はそういう作品なんです。
ブラッドリー・クーパーをカントリー歌手の設定にしたことで、大人のファンに見てもらいたいという狙いもあったでしょう。
店番 :レディー・カガの演技の評判はどうなんでしょう?
北中さん:彼女がアリー役を演じることに決まったときは、懐疑的な人もけっこういたんですが、プレミア上映を観た評論家たちが絶賛したことで、ゴールデン・グローブやアカデミーなど、映画の賞に多数ノミネートされています。
彼女の音楽を聞くとわかりますが、音楽で内面を表現するというより、歌のヒロインを演じることが得意なタイプです。ずっとダンス・ポップをやっていたのに、いきなりトニー・ベネットとデュエットしても大丈夫、みたいな人ですから。

トニー・ベネットとデュエットするレディー・カガ 収録アルバム『Duets II』(2011年)はベネットが85歳にしてBillboard 200で自身初の初登場1位を獲得した。 Photo: Studio Sarah Lou
レディー・ガガに重なる物語『アリー/スター誕生』
店番 :けっこう変わった経歴というか、波乱万丈な人のようですね。
北中さん:もともとニューヨークのお嬢様ですが、個性が強かったため、学校でいじめられて中退。しかし音楽への夢を捨てず、まずソングライターとして頭角を現わし、シンガーとしてもデビューしました。
売れなかった頃、ストリッパーのバイトをしていたことや、成功の階段を上がるたびに、そのときまでつきあっていた恋人と別れなければならなかったことなどを明るく語れるあたりは、タフな精神力の持主という気がします。
映画の物語はガガの体験をそのまま下敷きにしたものではありませんが、アメリカの観客は、ガガのそんな経歴も少し重ねて『アリー/スター誕生』を観たのではないでしょうか?

トロント映画祭での『アリー/スター誕生』プレミア上映でのレディー・ガガ Photo: GabboT
店番 :スターになるのもスターとして生きるのもラクな事ではないですよね。
北中さん:名声を得たスターは人がうらやむ存在かもしれないけど、実はとても孤独な存在です。それでドラッグやアルコールに救いを求める人も多い。そんなことも思いながら、エンディングで彼女が歌う「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」を聞くと、沁みる曲だと思いますね。
店番 :スターになるのもスターとして生きるのもラクな事ではないですよね。
北中さん:名声を得たスターは人がうらやむ存在かもしれないけど、実はとても孤独な存在です。それでドラッグやアルコールに救いを求める人も多い。そんなことも思いながら、エンディングで彼女が歌う「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」を聞くと、沁みる曲だと思いますね。