18年ぶり「ブエナ・ビスタ」続編!前作のヒットはライ・クーダーも想定外だった?

18年ぶり「ブエナ・ビスタ」続編!前作のヒットはライ・クーダーも想定外だった?

一世を風靡した前作から18年。続編のドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス★』が公開され、再び話題を呼んでいます。


本日の曲:ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ - チャン・チャン

キューバの老ミュージジャンたちの半生と、彼らのニューヨークでのコンサートの模様を記録した映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。日本では2000年に公開され、大きな反響を呼びましたが…。

企画自体、想定外に偶然生まれたものだった

店番  :キューバの老ミュージシャンたちの活動を追いかけたドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス★』が話題を呼んでいます。もうご覧になりましたか。

北中さん:はい。観てきました。
老ミュージシャンたちの世界的なブームを巻き起こした前作『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』から早いもので18年になるんですね。今回の『アディオス』は当時から最近のワールド・ツアーまで、彼らの活動の総集編的な作品なので、ブエナ・ビスタ初体験の人にも全貌がつかみやすいと思います。

店番  :そもそもブエナ・ビスタって、どんなプロジェクトだったんですか。

北中さん:アメリカーナ/アメリカのルーツ・ミュージックに詳しいギタリスト、ライ・クーダーのもとにプロデュースの話が持ちこまれたのが発端でした。彼はアメリカの音楽だけでなく、世界のルーツ・ミュージックにも詳しいんです。それでキューバのミュージシャンと西アフリカのミュージシャンのセッション・アルバムを作るつもりでキューバに行ったんですが、ビザの手違いでアフリカのミュージシャンがキューバに来れなかった。そこで急きょ企画を変えて生まれたのが『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のアルバムでした。

ビジネスとしては冒険でしたが…

店番  :ということは、瓢箪から駒みたいな企画だったんですね。そのとき企画はどのように変わったんでしょうか?

北中さん:キューバには20年代以降、弦楽器中心の演奏で発展してきたソンという音楽があります。その伝統と現在と周辺に焦点を当てることにしようと。そこでコーディネイターのフアン・デ・マルコスが歴史の生き証人のようなミュージシャンを集めてきました。最長老が当時90歳近かったコンパイ・セグンドでした。

店番  :じゃ、けっこうマニアックな企画だったわけですね。

北中さん:ビジネス的には冒険だったと思います。なにしろ主役が引退していたあまり有名ではない老ミュージシャンたちですからね。参加者の中で国際的に知名度が高かった現役歌手は70歳近いオマーラ・ポルトゥオンドだけ。しかも彼女は主役ではなく、ゲスト的な参加でした。

CDも映画も想定外のヒットだった

北中さん:でも幸いだったのはインディーズの小規模なレコード会社の社長がライ・クーダーに輪をかけてマニアックなキューバ音楽ファンだったことです。採算を考える前に、せっかくキューバまで来て、時間もできたんだから、好きなことをやってみようと。

店番  :なるほど、参加者の誰にとっても、夢を持てるプロジェクトだったわけですね。18年前の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の映画は私も観に行きました。コンサートでライ・クーダーがスライド・ギターを弾く場面はよく覚えています。

北中さん:いいところに目をつけましたね。1997年にアルバムが出て、まずまずの売れ行きでした。それで参加メンバーを集めて、ニューヨークのカーネギー・ホールでコンサートをやる計画が生まれました。当時はアメリカとキューバが国交断絶中でしたから、実現すれば歴史的な出来事です。そこでライ・クーダーはかつて映画音楽を担当したことがあるヴィム・ヴェンダーズ監督に声をかけて、記録に残そうと。

店番  :コンサートを記録するための映画だったのですね。

北中さん:当初は、単館上映の規模で、熱心な音楽ファンの集客が見込めればいいと思っていたようですが、公開してみたら、予想外に大ヒットして、アルバムも何年にもわたって売れ続けたわけです。

古い建物が並ぶキューバの市街地

共感を誘った「お爺ちゃんお婆ちゃんの魅力」

店番  :ところでブエナ・ビスタ…という名前ですが、このクラブは由緒あるクラブなんでしょうか?

北中さん:もともとはキューバの首都ハバナにあった黒人専用の社交クラブです。若いころバレリーナ志望だったオマーラは、肌の色を理由にバレー団の試験に何度も落とされて、歌手をめざしたという話が映画に出てきます。人種差別の厳しかった50年代までクラブも人種別に分離されていたんです。

そのクラブは改造されて、いまはジムとして使われています。映画『アディオス』では、床に張られたタイルの跡が、往時のおしゃれな賑わいをしのばせてくれます。ブエナ・ビスタ…のプロジェクトはそのクラブの名前を借りたんです。名前は「眺めのいい」という意味です。

店番  :それにしても隠れた老ミュージシャンたちがどうしてそんなに脚光を浴びたのでしょうか?

北中さん:映画の出演者はチャーミングなお爺さんお婆さんぞろいでした。引退して忘れ去られていたミュージシャンが脚光を浴びるというわかりやすい物語もあって、高齢のミュージシャンが元気に人生を楽しんでいる姿が、普遍的な共感を誘ったんだと思います。経済制裁のためにお金がかけられず、古い建物がそのまま残ったハバナの街並みやレトロな車の光景にも目を奪われましたね。

「人生の花は誰にでも必ず訪れる」

店番  :アコースティックな音楽のグルーヴも魅力的ですね。

北中さん:キューバ音楽は30年代のルンバ・ブーム、50年代のマンボやチャチャチャのブームなどを通じて、ジャズやロックに匹敵する影響力を持ってきました。1959年のキューバ革命でアメリカとの国交が断絶して、それが途絶えていたのですが、『アディオス』には、国交回復後、ホワイトハウスに行ってオバマ前大統領に演奏する場面も出てきます。ブエナ・ビスタ…はその伝統の底力を思い出させるものでした。

店番  :奥が深い音楽なんですね。

北中さん:『アディオス』のコンサート場面では、イブライム・フェレールの「ブルカ・マニグア」という曲が大きくフィーチャーされています。これは自由を求める黒人奴隷の歌で1930年代の名曲です。

店番  :18年前の映画からは「チャン・チャン」というヒット曲も生まれました。

北中さん:「チャン・チャン」は、旅の途中で女の子の揺れるお尻に男の子が興奮するというお茶目な歌ですが、コンパイ・セグンドがこの曲を作ったのはなんと80歳代になってからだそうです。彼は「俺は遅咲きだったが、人生の花は誰にでも必ず訪れる」と言っています。このポジティヴさ、たまりませんね。「元気の秘訣は、やりすぎないことさ」とも。うーん。ぼくも見習わねば。

店番  :え?何をですか??

北中さん:いや。むにゃむにゃむにゃ。

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ - チャン・チャン

YouTube 提供:World Circuit Records


右側に座り、ギターを弾きながら低音の第二声(セグンド)を担当しているのがコンパイ・セグンド。シブい低音の歌声とダンディーなスタイルで人気を集めました。

映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』公式サイト

http://gaga.ne.jp/buenavista-adios/

ブエナ・ビスタ現象再び。あれから18年—。‘さよなら’世界ツアーの幕が上がる。|映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』公式サイト

ゴールデン横丁の仲間たち | 北中 正和 (きたなか まさかず)

https://goldenyokocho.jp/articles/669

1946年、奈良県生まれ。J-POPからワールド・ミュージックまで幅広く扱う音楽評論家。『世界は音楽でできている』『毎日ワールド・ミュージック』『ギターは日本の歌をどう変えたか―ギターのポピュラー音楽史』『細野晴臣インタ ビュー―THE ENDLESS TALKING』など著書多数。

関連する投稿


ローリング・ストーンズ/The Rolling Stones - Start Me Up - 1981年

ローリング・ストーンズ/The Rolling Stones - Start Me Up - 1981年

アイデアを思いついてからリリースまで5年かかった作品。 1962年のデビューから半世紀以上の歴史を築き上げ、現在も現役のロック・バンド。ブルース/R&Bをベースにパンクやレゲエ、ディスコなど時代の音楽トレンドを上手く取り入れつつ、数多くのヒット作を出してきた、言わずと知れたレジェンドです。81年当時のメンバーはミック・ジャガー(Vo)、キース・リチャーズ(G)、ロン・ウッド(G)、チャーリー・ワッツ(Ds)、ビル・ワイマン(B)。


ベリンダ・カーライル/Belinda Carlisle - Leave A Light On - 1989年

ベリンダ・カーライル/Belinda Carlisle - Leave A Light On - 1989年

世界各国でチャートインしたヒット作。 ベリンダ・カーライルは女性バンドとして初の全米1位に輝いたガールズ・ロックバンド、The Go-Go'sのリード・ヴォーカル。1985年のバンド解散後はソロ・デビューし、ポップな音楽性で多くのヒット作を放ちました。


エックス・ティー・シー/XTC - Mayor Of Simpleton - 1989年

エックス・ティー・シー/XTC - Mayor Of Simpleton - 1989年

アメリカ進出を狙った意欲作。 XTCはアンディ・パートリッジ(Vo,G)を中心とするロック・バンド。1977年デビュー。ビートルズなどの影響を受けた、ポップなのにどことなくひねくれた、イギリスらしいロック・サウンドで人気を集め、ブラーに代表される90年代のブリットポップにも大きな影響を与えました。また、日本ではカルト的な人気を誇り、多くのミュージシャンが彼らの影響を公言しています。


ケイト・ブッシュ/Kate Bush - Babooshka - 1980年

ケイト・ブッシュ/Kate Bush - Babooshka - 1980年

イギリスを代表する女性アーティストの神秘的なヒット作。 ケイト・ブッシュはイギリス出身のシンガー・ソングライター。ピンク・フロイドのギタリスト、デヴィッド・ギルモアに才能を見出されて1977年に弱冠19歳でデビューし、独自の感性によるアーティスティックな楽曲とハイトーンな歌声で、デビュー曲「嵐が丘」が全英1位になるなど早くから注目を集めた天才肌です。現在も寡作ながら活動を続けています。


ブライアン・フェリー/Bryan Ferry - Let's Stick Together - 1976年

ブライアン・フェリー/Bryan Ferry - Let's Stick Together - 1976年

ブルースの名曲をフェリー流にカバー。 ブライアン・フェリーはイギリスのロック・バンド、ロキシー・ミュージックのヴォーカリスト。バンドのほとんどの曲を手がけたソングライターとしても知られます。黒人音楽に大きな影響を受けて確立した、音と音の隙間を縫うような独特な歌と、ヨーロッパ的美意識がにじみ出る作風の曲で人気を集めました。


最新の投稿


117クーペ | いすゞ - 国産車離れした美しいスタイル【旧車】

117クーペ | いすゞ - 国産車離れした美しいスタイル【旧車】

今やトラックを生産するメーカーとして盤石の地位を固めたいすゞも、昔はいくつもの個性的な乗用車を世に出していました。 そんな中でも1968年のデビューから1981年までの長きに渡って製造され、かつ非常に魅力的なスタイルを誇りいすゞの代名詞でもあったのが、この117クーペです。


昭和に散ったギャグ系死語の世界 ~あたり前田のクラッカー~

昭和に散ったギャグ系死語の世界 ~あたり前田のクラッカー~

懐かしくてちょっと痛々しい…昭和に咲き誇り、今や死に絶えた言葉を紹介する「死語の世界」。今回は番外編。昭和に散った「ギャグ系死語」。今回はあんかけ時次郎でおなじみ、「てなもんや三度笠」から生まれた昭和の名ギャグ「あたり前田のクラッカー」を解説。


【クルマニアックイズ】165本目

【クルマニアックイズ】165本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!


平玉火薬 - 火薬は正しく使いましょう

平玉火薬 - 火薬は正しく使いましょう

おもちゃのロケット弾(ジャンプ弾とも)やピストルに仕込む火薬ですね。巻紙になったタイプとこのようなシート状の「平玉」がありました。大人から危ないと言われるほどやってみたくなるのは子どものサガ。今も昔も変わらない?


【クルマニアックイズ】164本目

【クルマニアックイズ】164本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!