
本日の曲:ロッド・スチュワート - 胸につのる想い(You're In My Heart (The Final Acclaim))
日本代表の奮闘でおおいに盛り上がり、7/15(日)に決勝戦を迎えた2018FIFAワールドカップ ロシア。
そのなかでもイギリスは”サッカーの母国”であり、今回の大会でもイングランドが1990年イタリア大会以来のベスト4に進出するなど大きな存在感を放ちました。
今回はそんなイギリスのミュージシャンとサッカーの深~い関係をお教えします。
登場人物
北中さん
音楽大学でポピュラー音楽史の講義も担当する音楽ジャーナリスト。このコーナーでは懐かしのヒット曲に関する店番の疑問をわかりやすく解説します。
店番
ゴル横の音楽コーナー担当。洋楽に関する疑問を北中さんに質問していきます。このコーナーについては予告編をご覧ください。
サッカーとロックとは切っても切れない関係が…
店番 :7/15(日)の決勝戦で幕を下ろす2018年のワールドカップ ロシア大会ですが、いろいろな伝説が生まれましたね。日本はベスト8に届きませんでしたが、決勝トーナメントに進めたのは大健闘でした。
ベルギー戦惜しかった…。僕はこのところ試合の見過ぎで、すっかり寝不足ですよ。
北中さん:ぼくが若かったころは、サッカーの人気が日本でもこんなに高まるとは夢にも思いませんでした(遠くを見る目になる)。ところでサッカーといえば、ロックと切っても切れない関係があるんですよ。
店番 :アンセムやチームのサポーターの応援曲のことですか?
その時代の空気が垣間見える、ワールドカップ各大会の公式アンセム
北中さん:それもひとつですね。ワールドカップでは毎回、公式アンセムが作られます。今回はニッキー・ジャム・フィーチャリング・ウィル・スミス&エラ・イストレフィの「Live It Up」です。
店番 :俳優のウィル・スミスはともかく、他の二人は知らない人なんですが…?
北中さん:ニッキー・ジャムはレゲトンのダサカッコいい感じのスター。エラは中欧コソボ生まれのアルバニア系ダンス・ポップの歌姫です。二人とも非英語圏で活躍しているので、日本では知られていませんが、ユーチューブではそれぞれ億単位のヒット数がある人気者です。いまどきのワールドカップならではの顔合わせですね。
店番 :たしかに、おやじ世代が聞いても親しみやすい感じのノリのいい曲ですね。エラはエキゾチックな長髪美人だし…。とはいえサッカーといえば発祥地のイギリスの音楽のほうがなじみがある気がしますが?
イギリスのミュージシャンとサッカーチームには深い関係が…
北中さん:イギリスにかぎりませんが、労働者階級の若者が身一つで成り上がるには、ロック・ミュージシャンになるか、サッカー選手になるかのどちらかだと言われてきました。実際、イギリスのミュージシャンにはサッカー・チームのサポーターが多いですね。なにしろ女王がアーセナル・ファンを公言している国ですから。
店番 :ミュージシャンが出身地のサッカーチームをサポートする傾向は、イギリスでもあるんですか?
北中さん:それは強いようです。たとえば90年代のブリット・ポップのブームの人気を二分したのはマンチェスターのオアシスとロンドンのブラーでしたが、オアシスのギャラガー兄弟はマンチェスター・シティの、ブラーのデーモンはチェルシーのサポーターです。ロンドン・パンクの雄、クラッシュの故ジョー・ストラマーもチェルシーをサポートしていました。もっと前の世代ではポール・マッカートニーがリヴァブールのエヴァートンを支持しています。
店番 :地域には関係ありませんが、ミック・ジャガーが応援するチームはワールド・カップで次々に敗れるという評判を聞いたことがあります(笑)。
北中さん:エルヴィス・コステロがリヴァプールの試合を観戦するため、コンサートの開演時刻を遅らせたとかね(笑)。
あのロック・スターはプロのサッカー選手だった!?
店番 :サッカー選手からミュージシャンになった人もいるのでしょうか?
北中さん:レアル・マドリードのユース・チームにいたフリオ・イグレシアスが、負傷がきっかけで歌手になったのはスペイン語圏では有名な話です。
店番 :.。oO(ナタリー♫ の人か…)
北中さん:ロッド・スチュワートもミュージシャンになる前はブレントフォードに所属していました。 歌手になってからもステージでボールを蹴るのがトレードマークで、フェイセズで初来日したとき武道館で蹴っていたのを覚えています。いまもやっているのかなあ。
店番 :.。oO(プロの選手だったのか…)
彼の「セイリング」は車のCMで有名ですが、サッカー関連の曲はないんでしょうか?
北中さん:サッカー・ファンには「オレ・オラ」というサンバ風のサッカー・アンセムがよく知られています。1978年のワールドカップ関連曲です。前年の77年に出たアルバム『明日へのキック・オフ(Foot loose & Fancy Free)』もおすすめです。
収録曲のうち「ホット・レッグス」の熱い脚はセクシーな女性の脚のことですが、「胸につのる想い(You're In My Heart (The Final Acclaim))」という女性賛歌には、最後になって、女性の魅力をグラスゴーのセルティックやマンチェスターのユナイテッドにたとえるフレーズが出てきて、サッカー・ファンぶりがわかります。ロッド・スチュワートはスコットランドに縁があり、セルティックの熱心なサポーターなんですよ。
店番 :中村俊輔が在籍していたチームですね?
北中さん:そうです。そうです。セルティック(celtic)のceltは日本ではケルトと読まれています。スコットランドは北アイルランド、ウェールズと並んでケルト系の住民が多い地域で、4年前にイギリスからの独立を問う投票が行われて話題を集めました。民謡も盛んで、「蛍の光」の原曲はスコットランド民謡です。興味のある人はLAUというグループの「Himba」という曲はいかがでしょう?とてもポップな演奏ですよ。
■ロッド・スチュワート - 胸につのる想い(You're In My Heart (The Final Acclaim))
YouTube 提供:Rod Stewart
You're Celtic, united, but baby I've decided
You're the best team I've ever seen
というくだりが女性の魅力をサッカーチームにたとえるフレーズです。
ミュージックビデオではサッカーの映像も重ねられ、結びつきの強さを感じさせます。

ゴールデン横丁の仲間たち | 北中 正和 (きたなか まさかず)
https://goldenyokocho.jp/articles/6691946年、奈良県生まれ。J-POPからワールド・ミュージックまで幅広く扱う音楽評論家。『世界は音楽でできている』『毎日ワールド・ミュージック』『ギターは日本の歌をどう変えたか―ギターのポピュラー音楽史』『細野晴臣インタ ビュー―THE ENDLESS TALKING』など著書多数。