【旧車】異業種コラボから生まれたカボチャの馬車「WiLL Vi」(トヨタ)

【旧車】異業種コラボから生まれたカボチャの馬車「WiLL Vi」(トヨタ)

スモールカーとかコンパクトカーと呼ばれるジャンルは、多くの人が購入するしターゲットとなる人も幅広い。高い品質を保ちつつ購入しやすい価格でなければならないし、かといって実用一点張りでは人気が出ない…そんな無理難題をクリアしなければならないのだが、そこをいつも上手にクリアしてくるのがトヨタのコンパクトカーだ。おそらく多くの人がそんなイメージを持っているのではないかと思うのだが・・・


手堅いだけではない?チャレンジングなトヨタ

保守的で手堅く思えるトヨタだが、振り返ってみればトヨタは実にチャレンジングな取り組みをしてきていることに気づくだろう。今やすっかり高級ラインのブランドとして「レクサス」が定着しているが、日本の他メーカーで新ブランドの立ち上げに成功したところはほとんどないと言っていい。もともとトヨタは自動織機の製造から自動車という異業種に参入したメーカーだ。保守的と思われがちだが、トヨタの歴史はチャレンジの歴史でもあったのだ。

トヨタの若者たちが提案する、新しい価値観

1999年(平成11年)から2004年(平成16年)にかけて、日本の大手企業が手を組んで行われた異業種合同プロジェクト「WiLL(ウィル)」。トヨタ自動車の他、花王、アサヒビール、松下電器産業(現・パナソニック)、近畿日本ツーリストの5社で立ち上げ、後に文具のコクヨや江崎グリコも参入した。いわゆるニュージェネレーションと呼ばれる、当時の20~30代をターゲットに、既存の価値観とは違った新しい視点で商品開発を行うことを目的としたプロジェクトだった。
1999年の時点で25歳とすると、生まれたのは1974年(昭和49年)。第二次ベビーブーム世代で、過酷な受験戦争をかいくぐってみたら就職氷河期で終身雇用や年功序列が崩壊して既存の価値観がガラっと変わってしまった若者たちだ。プラス10歳するとバブル末期に就職したぐらいの世代。「従来の価値観」、つまり旧来のマーケティングが通用するターゲットだ。その下の世代、旧来のマス層から外れる若い購買層=ニュージェネレーション層は「自分らしさ」や「こだわり」を意識し、「心地よさ」や「遊び心」を重視するなど、他の世代とは異なった消費行動をすると想定された。そういう層が、今後自動車の購入をする世代になり、しかも過去最大のボリュームを持っていると考えられていた。
WiLLプロジェクトはそれに合わせたマーケティングや商品企画を行うという大企業連合による合同実験だったと言える。
ただ、この企画はトヨタの社内公募で集まった約30名ほどの若者たちが立ち上げたプロジェクトで、決して大手広告代理店が「仕掛けた」ものではなかった。つまり、トヨタの本気のチャレンジで、トヨタの将来を大きく左右するかもしれない重要な企画だったのだ。

WiLLブランド第1弾、カボチャの馬車「WiLL Vi」

少しだけ年代は後になるのだが、トヨタがアメリカで「ジェネレーションY(日本でいうニュージェネ)」をターゲットに「サイオン」ブランドで展開を行った時期があった。こちらも旧来の顧客とは考え方の異なる次世代の顧客へのアプローチを模索したプロジェクトだった。それほどトヨタは本気で次世代の顧客との接し方を考えて、あれこれ模索していたということだ。

上辺だけ見ると「チャラチャラした異業種コラボ」と思われがちな企画だが、WiLLプロジェクトは本気も本気だったのだ。
そしてこれを念頭に置いてWiLLブランドのクルマを見ると、見え方もだいぶ違ってくる。WiLLブランドが旧車か?という気がしないでもないが、よく考えたら20年前のデビューである。もう十分にネオクラだ。

2000年(平成12年)1月に登場したWiLLブランド第1弾、「WiLL Vi」は初代ヴィッツのプラットフォームをベースにしたノッチバック4ドアセダンだ。もちろんトヨタのエンブレムは掲げておらず、グリル中央にはオレンジ色のWiLLのロゴが燦然と輝いている。
「カボチャの馬車」をモチーフにしたというスタイリングは、ヴィッツに比べるとだいぶ可愛らしいもので、見た目の最大の特徴はクリフカットと呼ばれる逆スラントしたリアウインドウとCピラーのラインだ。初代マツダ・キャロルを思い起こさせるこのボディラインは、タレ尻型トランクの容量を確保しつつ後席のヘッドスペースを稼ぐ工夫だ。
強度確保の波型が入れられたプレスドア、鉄板むき出しのドア内側に設けられたマガジンラックのようなドアポケット、フランスパンをイメージしたというインパネに無印良品のソファのようなシンプルなベンチシートを備え、既存の価値観にとらわれない「自由な個性」がありとあらゆるところに炸裂している。キャンバストップ仕様を選べば、まるでもう「カボチャの馬車」だ。木枠の車輪は、なぜかスカシカシパンのようだが…。
ハコスカだの27レビンだのが好きな硬派なクルマ好きの諸兄からしたら、「何じゃコリャ!?」と眉をひそめてしまうかもしれない。コラムシフトのレバーのグリップが丸いのは、機能じゃなくてカワイイからなのだ。性能や機能ではなくて、すべてが演出。デカくて高級で速くてカッコいいから偉いのではなく、狭くても雰囲気がよくて居心地よいベンチシートで寄り添えるほうがキモチイイのだ。だからカボチャの馬車でも婦女子だけでなく、若い男子も喜んで買ってくれるだろう。ついでに言えば、寄り添うのは赤プリのスイートじゃなくていい、一人暮らしの自分の部屋とか、こういう居心地のよいクルマでいいじゃない。そういう新しい考え方のクルマなのである。それに、エクステリアは好き嫌いがあるだろうが、よく見れば「カッコカワイイ」になっているのだ。好き嫌いはあっていい、これが「刺さる」人たちがいて、それが今後の購買層になるかもしれない。そこを模索したのが、WiLLブランド第1弾の「Vi」だったという訳だ。

自分が楽しい、心地よいと思うクルマを楽しみたい

ニュージェネ世代が小学校高学年~高校生ぐらいの頃、東京ディズニーランドが開園した。当時連れて行ってくれたお父さんお母さんはちょっと気恥ずかしそうだったが、子どもたちはミッキーやミニーの耳の帽子を被って、ディズニーの世界を心から楽しむことができたのではないかと思う。その子どもたちが大人になり、彼氏や彼女と再びディズニーランドに行ったとき、きっと当時と同じように楽しむことができるだろう。恥ずかしいとかカッコ悪いとかではなく、自分が楽しいと思うから楽しむ、心地よいと思うから心地よく過ごせる、そのことを知っている世代のユーザーが、そのような消費行動と同じ楽しみ方をするクルマなのである。
きっと“こういうスタイルのほうがラクだし楽しいんじゃない?”と、カボチャの馬車は呼びかけているのだ。

関連するキーワード


旧車図鑑 トヨタ WiLLVI

関連する投稿


【旧車図鑑】フォルクスワーゲン・ゴルフⅡ:小さくてキビキビ走るゴルフは、身近なガイシャだった

【旧車図鑑】フォルクスワーゲン・ゴルフⅡ:小さくてキビキビ走るゴルフは、身近なガイシャだった

1980年代後半から90年代前半頃に販売されていたクルマは、これまでヒストリックカーとか趣味の旧車と呼ばれるような対象として扱われることはあまり多くなかった。クルマが高嶺の花というような時代でもないし、クルマの品質も格段に良くなり始めた頃だからついこの間まで現役で走っているクルマも多かった。見かける台数も多くて珍しくもなんともない…なんて思っていたこの頃のクルマだが、ここ数年で急激に見かける機会がなくなってきたのではないだろうか。


【クルマニアックイズ】425本目

【クルマニアックイズ】425本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!


2000GT | トヨタ - ため息がでるような美しいボディライン

2000GT | トヨタ - ため息がでるような美しいボディライン

日本の旧車の最高峰といってもいい、トヨタ2000GTだ。 いつみてもため息がでるような美しいボディライン、素晴らしい内装、そして音もいいという素晴らしさだね。


【クルマニアックイズ】423本目

【クルマニアックイズ】423本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!


スプリンタートレノ | トヨタ - 人気漫画のイメージが強い白黒パンダカラー

スプリンタートレノ | トヨタ - 人気漫画のイメージが強い白黒パンダカラー

AE86といえばやはり白黒パンダカラーの「イニシャルD」のイメージが強いね。これはまさにその『藤原とうふ店』仕様になっているし。


最新の投稿


モルタル住宅

モルタル住宅

昭和を感じる生活用品や、家電、建物など、庶民文化研究所所長 町田忍画伯が描くイラストコレクション「昭和レトロ画帖」。今回はかつてよく見た建築資材モルタルを利用した「モルタル住宅」についてご紹介。


スカイラインGT-R - 第2世代のGT-Rとして爆発的な人気を誇ったR32

スカイラインGT-R - 第2世代のGT-Rとして爆発的な人気を誇ったR32

第2世代のGT-Rとして爆発的な人気を誇ったR32も、そろそろ旧車とかネオクラシックと呼ばれる世代になってきたね。


【クルマニアックイズ】430本目

【クルマニアックイズ】430本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!


空の旅のお供。航空会社のアメニティその1 マッチ・石鹸・絵葉書

空の旅のお供。航空会社のアメニティその1 マッチ・石鹸・絵葉書

日本国内はもちろん、遠く海外まで我々を運んでくれる究極の移動手段、飛行機。その機内で手に入るアイテムが、各航空会社で配られるアメニティだ。今回は様々な場所に移動している庶民文化研究所所長・町田忍さんに空の旅のアメニティを紹介してもらった。


【クルマニアックイズ】429本目

【クルマニアックイズ】429本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!