『こんなものを買った』Nakamichi CR-30

『こんなものを買った』Nakamichi CR-30

じつはいまゴル横でもおなじみナカミチ道のtoby館長全面協力のもと「Nakamichi Complete Book」というムックを制作しております。毎日毎日ナカミチのことばかり考えているとナカミチのデッキが欲しくて欲しくてたまらなくなりました。


ナカミチを手に入れるチャンスはありました

1986年頃、小学生の頃から家にあったカセットデッキ(パイオニアのCT-5000というシスコン用のものでした)を買い換えることにしました。予算はお年玉やら小遣いやら親のスネやらをかきあつめて7万円くらいでしたか。まあまあのものが買えます。普通なら。
このとき「思い切ってナカミチというのもアリなんじゃないか」と思ったのですが、この予算で買えるナカミチは一択。BX-125だけでした。

定価は6万9800円。ナカミチは値引きが期待できないのでこれでも予算ギリギリだったのです。
ところがこの頃ソニーからTC-K555ESXという新しいフラッグシップが登場したのです。もちろんソニーのフラッグシップナンバーは777ですが、当時777はTC-K777ESⅡという、やや旧態化したもの。実質的にはこのTC-K555ESXが新世代の最上級機でした。これが各オーディオ誌で大絶賛。
当時ソニーの値引きは2割と言われてましたので、実売価格は約8万円。若干予算オーバーでしたが、シングルキャプスタンの2ヘッド機であるBX-125に対し、デュアルキャプスタン3ヘッドの最新鋭機TC-K555ESXはあまりに魅力的でした。駄目モトで親のスネをもう少し齧ってみたら、1万円出てきたので、8万円握りしめて秋葉原に行ったのを昨日のことのように覚えております。
親のスネの偉大さと痛さは、人の親になって初めて実感しるところですが、当時は「ラッキー」とくらいにしか思っていなかった大馬鹿ものでした。
まあそれはともかく、こうして最初で最後のナカミチを新品で買うチャンスを逃していたのでした。
なぜかといえば、TC-K555ESXからデッキを買い換える頃、すでにナカミチは終焉を迎えつつありました。それどころかカセットテープの時代すら終わっていたのですから。
ただしTC-K555ESX、それは良いデッキでしたので、当時は後悔もなかったのです。

ナカミチのすごさ

それから数十年。いろいろあって今の仕事に就いてます。
ナカミチのデッキには、toby館長や牧野さん、ディスクユニオンの生島さんたちのおかげで、ドラゴンを始め様々なモデルの音を聴くことができました。
それにしても、何というか別格なんですよ、ナカミチは。
ドラゴンや1000がすごいのはわかります。ところがZX-7や9、もっと言ってしまうと2ヘッドの600やLX-3まで、すばらしい音がします。
クリアで鮮烈なのに安定している。アカイのGX-93なども使ってみて、良い音なんですが、ちょっと緊張感があるというか、崖っぷちを攻めた音で、ちょっと踏み外すと歪が出るギリギリな感じがするのです。(個人的な見解ですが)
一方ナカミチは、それが危なげない感じ。どこまでも良い音を安定して聴かせてくれます。
欲しい…。
そんな折、toby館長と「Nakamichi Complete Book」を作ることになり、思い切って相談してみました。
「一番安くてナカミチらしいデッキってなんですか?」

良い塩梅のナカミチ

toby館長はちょっと考えて、「481とか482なんか良いんじゃないですか。動作品でも2万くらいで買えますよ」とおっしゃいました。
うーん、70年代かあ。デザインも古いしなあ。
もうちょっと新しめでないですか?
「ナカミチは1982~3年の製品を最後に自社製のメカの開発を止めてしまうんですよ。三協メカでも良いですか?」
訊けば三協メカでも悪いものではないようですし、開発責任者だった小林耕三氏にインタビューした際も、「三協もナカミチの特許を使ったメカだった」とおっしゃってましたし。
「でしたらCR-30なんか良いんじゃないですか。あまり人気がないので安く手に入りますし」
ではそれで。相場はやはり「動作品で2万円なら買いじゃないですか」とのこと。主にヤフオク!でリサーチをはじめました。
ただやはり良さそうなものは2万円を超えたり、安いものはジャンクだったりと、なかなか落札にいたりません。
そんなある日、toby館長から「ジャンクのCR-30を落札しました。ご所望なら整備して動くようにしますが」とのありがたいお申し出。
このジャンク、じつは私もチェックしていました。ただヘッドが上がらなくて不動、とのことでしたので諦めていたのです。
「ぜひぜひ!」ということでtoby館長整備済みのCR-30がやってくることになりました!

外観ははっきりいってイマイチですが…

「あまりキレイな個体じゃなかったんです」とのことでしたが、toby館長が整備&チェックをしてくださったCR-30がコレです。

とくに右側面は、こんな感じ。オークションではこの写真は出てなかったので、ジャンクという免罪符で売り抜けるパターンですね。

パネルも光を当ててみると若干カビのような跡があったりします。
ただし、音は素晴らしいです!
まず試聴してみたのはa-haのハンティング・ハイ・アンド・ロウ。1曲目はもちろんテイク・オン・ミーです。
すげえ! CDかと思うような音。このボロボロのミュージックテープの音とは思えません!

a-haは日本では一発屋というイメージですが、ヨーロッパではずっと第一線で活躍していたグループです。解散、再結成を繰り返しつつ、今でもオリジナルメンバーで活動してますが、もともと実力派なんですよね。このアルバムも素晴らしい曲揃いです。ちなみに来年3月には、ファンの間では「最後の来日か」と噂される日本ツアーも予定されてます。私も東京公演のチケットをゲット済です!!
……というのは置いといて、CR-30の実力、侮りがたし。具体的な値段は書けませんが、格安でお譲りいただいたtoby館長に感謝、感謝です。

CR-30とはどんなデッキだったのか

CR-30の音の洗礼を受けた所で、落ち着いて観察してみます。
(ここからは多分にtoby館長や小林氏の受け売りです)
CR-30が登場したのは1987年(CR-20、CR-40も)。バブル絶頂、カセットテープの生産量も絶頂でしたが、ナカミチはすでにカセットテープ一辺倒からデジタル系に軸足を移そうと画策していました。
先にも書きましたが、すでにカセットテープメカは外部生産のものを採用しており、ヘッドこそナカミチ製でしたが(そうでないとあの性能は実現できないので)、ファンの間では主に「純ナカミチではない」という理由からあまり人気がない、と言ってさしつかえないでしょう。
ちなみに前年1986年に登場したナカミチ製カセットデッキはなく、1985年はCR-50、CR-70、BX-125が登場したのみと、新製品のラインナップからも、ナカミチがカセットデッキに重きを置いていない時期だったことがわかるでしょう。
CRシリーズは上から、CR-70、50、40、30、20とありますが、70と50は別格。実質2ヘッドのCR-20、ディスクリート3ヘッドのCR-30、オートキャリブレーション(バイアスと録音感度)付きのCR-40というのが姉妹機といえます。
再生ヘッドにはあの「テープパッドリフター」が付けられていて、テープパッドに頼らず再生ヘッドにテープを当てるという機構が採用されているのです。三協メカといえどそのへんのメーカーには負けない走行系を持っていたという証左でしょう。

またCRシリーズが、生粋のナカミチ・マニアに人気がないのは、ナカミチらしさが希薄、ということもあるでしょう。
もともとナカミチの設計思想は、「音に関係ない部分のコストは徹底的に削る」というものです。たとえばあのドラゴンでも立派なインシュレーターなんて付いてません。他のメーカーが、無駄に重いシャシーや銅メッキパーツでカタログを飾り立ててた時代も、唯我独尊、我が道を行くナカミチは、むしろ地味な外観、内部こそ美徳としていたのです。
ところがCRシリーズは立派なインシュレーターが付いてます。CR-40は銅メッキシャシーまで。「ナカミチも商売に走ったか」というのがファンの本音ではないでしょうか。
実際、小林氏にお話をうかがったところ、CRシリーズくらいから、営業、とくにアメリカの声が強くなって、見た目の商品力も要求されるようになっていたとのこと。「それでもCRシリーズはギリギリ開発側の声が強く採用された最後のモデルだった」ともおっしゃってました。
実際、音はナカミチらしい、安定感とクリアさを両立したものでした。

CR-30の内部です。ナカミチ全般に言えるのですが、ケーブルの空中配線が多い! これが複雑に見える要因でしょう。
このあとのDRシリーズになるとフラットケーブルも増えて、随分スッキリするのですが、CRシリーズはまだこんな感じです。
いっぽうこれが三協メカ。

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