まだまだあるぞ、知る人ぞ知る、名作マンガ
年頃(?)になると、少しマニアックなマンガを読むようになった。
中には有名な作家のものも読んだが、それでも心に残っている作品は、そのマンガ家の 代表作ではないようだ。
「AKIRA」「童夢」で一世を風靡した大友克洋さんだが、僕に強烈な印象を残した代表作は「気分はもう戦争」(原作:矢作俊彦)だった。当時のソ連が中国に突然侵入した後、義勇兵の若者三人が西遊記のように戦争中の中国をさまようのだが、「戦争が起きるとこうなるかも?」という話が、オムニバス形式で挿入されている。生まれて初めて、
「自分の生きている間に身の回りに戦争が起きない保証はない」
と、考えさせられた作品。
「What’s Michael」で、世の中に第一次猫ブームを起こした小林まことだが、その前に一部男子に人気を博したプロレスマンガ「1,2の三四郎」は、僕にとっていわば青春のバイブルである。普段はおバカキャラで周りを笑わせながらも、陰に隠れて特訓を行って、本番では奇跡の逆転を演じるという、僕のあこがれパターンがここで完成した。そういえば、「キャプテン」「プレイボール」といい、僕は、人に隠れてやる闇練が好きだったようだ。当時、大学の体育会での厳しいトレーニングに耐えられたのは、ひとえにこのマンガのおかげである。

「三国志」といえば、吉川英治、柴田錬三郎、横山光輝というほど、横山版「三国志」は、もはや定番となっているが(ちなみに僕のお好み三国志は三好徹作、ここでもへそ曲がりですね)、僕は横山版「水滸伝」が大好きで、何度読んだかわからない。108人の主人公たちが、とんでもなく悪い奴らに怒ったり、正当防衛で殺したり、なかには濡れ衣でお尋ね者になっていくが、力を合わせて悪党どもを退治していくのは、まさしく元祖「ワイルド7」!
そして、テレビアニメとは、全く空気感の違う永井豪「デビルマン」。泣き叫ぶ子供の顔を甲羅に宿す亀の化け物を、泣きながらやっつける良心を残した悪魔の戦士。(これは夢で出てきて、かなりうなされました)。そして、彼が守ろうとした人間が次第に悪魔に変わっていき・・・。ああ、もう怖くてこれ以上は書けない。
裏街道との離別とお姫様との出会い、マンガ王国との再会
さて、こんなマンガ文化で育った僕だったが、27歳となり、なんだか新婚生活にマンガを持ち込むのがためらわれて、それからしばらく距離を置くことになった。
しばらくというのは25年ぐらいのことである。その間、マンガを手に取ることはなく、見るアニメの主人公は、娘を膝に抱いて一緒に見る「あんぱんまん」、そしてディズニーのお姫さまたちだった。これはこれでまあ、面白い。一度目は・・・。
月日は流れて。
五十歳を手前にした僕は、やたらと肩や腰が凝って痛い立派なおっさんになっていた。そこで、効いているのか効いていないのかよくわからないけど、まあ、温かくて気持ちのいい10分間の電気治療を受けたあと、格安料金でマッサージを15分してくれる整形に通うことになる。ところが、世の中にはそんなこと考えている輩がたくさんいるようで、日曜の午後ともなると、順番待ちの人で待合室は込み合い、かなり待たされることになるのだった。待ち時間をつぶすために普段本を持っていくだが、ある日、余りに待たされたために持っていった本を読み終わってしまった。しかたない。ぼーと待っていよう。と、腕組みする僕の視界に入ってきたのは、本棚に並ぶマンガの数々だった。

そんな風にして五十代のマンガリバイバルが始まった。
話題の「ワンピース」に始まって、「宇宙兄弟」、そして、あの「キングダム」へと、もうその頃には、腰を治しに行っているのだが、マンガを読みに行っているのだか、わからないほど、次々と読み進めていった。そして、今回手にしているのは、そこの整体のスタッフが選んだと思われる、裏街道ではない、表参道の人気コミックなのである。裏街道仲間からは裏切者と呼ばれるかもしれない。日和見と蔑まれるかもしれない。しかし、長いブランクを経て読み始めた「キングダム」は、この裏街道を歩んできた僕にも、力強く、たくましく語りかけてくるのであった。
ああ、これからどんなマンガ人生が僕を待ち受けていることだろうか。

おまけ
最後に、もう一つ裏街道の名作を。
アニメで絶大なヒットを果たした「風の谷のナウシカ」のコミック版を読んだ人は少ない。なんと、あの宮崎駿先生が描いているのだ。映画のナウシカは、コミックの第二巻の途中までのストーリーで終わっているが、これは言わばプロローグ、そこから先から壮大な物語が始まるのである。人類そのものが、この世界にとって清めないといけない汚れかもしれない、という、恐ろしく深く考えさせられる物語、今こそ世界へ向けて発信すべき日本の誇るべき宝であろう。

ゴールデン横丁の仲間たち | 村上 百歩(むらかみ ひゃっぽ)
https://goldenyokocho.jp/articles/2334自分や身の回りのことを中途半端な長さのエッセイにするのが趣味の変人経営者、村上百歩(むらかみ・ひゃっぽ)氏。変人とは半分謙遜、半分事実なのは長年の友人であるゴル横会長の良く知るところなり。