デイ ドリッパー

デイ ドリッパー

エッセイストにして経営者でもある村上百歩氏が同世代のおじさん仲間におくるエンターテインメント・コラム。今回は大人の薫り漂う珈琲のお話です。


始まりは缶、そして「さぼうる」の青春

初めて飲んだコーヒーは、いわずと知れた昭和の名品、UCCの缶コーヒーだった。
♪飲むんだったらUCC、いつでも、どこでも、UCCコーヒー!
というCMソングを刷り込まれ、
「子供がコーヒーなんて飲むとバカになるよ!」
といわれなき親の脅しを聞き流し、
小学校5年生の僕はキオスクで初めてのコーヒーを買って飲んだのである。
あの豊かな香り、さわやかな喉ごしの甘いコーヒーを、ぐいっ、ぐいっ、と飲み干し、それ以来コーヒー道に足を踏み入れた。

画像提供:UCC上島珈琲株式会社様

そのままコーヒーとはいえば、甘くておいしい缶コーヒー、という中学高校時代を経て、大学に入ると、にわかに砂糖もミルクも卒業して、(本当は、砂糖もミルクも入れたかったのだが)かっこいいブラックを、煙草も吸いながら、眉間に皺をよせながら飲むのが青春、となった。
当時、自分で一番かっこいいと思っていた神田神保町の喫茶店「さぼうる」に通っては、安部公房、別役実などのハードカバーを、短い脚を必死に組みながら、太宰治のような難しい顔をして読み、熱いブラックをすするのがステータスだったのだ!コーヒーの苦みは人生の苦み、甘っちょろい人生なんかおさらばさ、なのである。「さぼうる」のマッチ箱はちょっとかっこよくて、わざと煙草と一緒に持って歩いてみたりもしてみた。

悲しい平成サラリーマンコーヒー

会社に入り、そんな青春の日々も過ぎて、毎日12時になると、課長の
「行こうか」
の合図で、なぜか課員5名全員で、ぞろぞろと定食ランチへ行き(どの店に行くかの選択権は課長に握られていた昭和平成時代!)、昼食が終わると、今度は 喫茶店(50%の確率でドトール)に入って皆で煙草を吸いながら、夏はアイス、冬はホットコーヒーを飲むようになる。煙草を止めていた自分としては、そんなモクモクの喫茶店には行きたくなかったし、たとえ春先にアイスコーヒーが飲みたくても課長がホットならホットしか飲ませてもらえなかった。課長がものすごく機嫌のいいときだけコーヒーをおごってもらっていたけど、いつもは割り勘で、毎日だとバカにならない出費だった。今だったら間違いなくパワハラであろう。

そういえば、この頃、一度だけ、子供の頃から入ってみたかった「ルノアール」という喫茶店に侵入したことがあったが、なんだか大人の雰囲気が「印象」深く(学生もサラリーマンもいない)、そそくさと高級ネルドリップコーヒーを堪能して退散した。さすがルノアール、「印象」がすごい。

カフェ・ルネサンス

だいぶおじさんになって、自分が課長になった頃、ご存知スタバがアメリカから上陸してきた。そしてスタバと共に急に頭角をあらわしてきたのが「ラテ」である。
 ん?ラテって何?カフェオレとどう違うの?などとまごまごしている間に
「ブラック、特にアイスコーヒーを飲むのはおじさん、私たちはラテ!」ということで、新たなおじさん差別が仕掛けられたのだが、もともと牛乳好き、コーヒーの酸味より苦みが好きの僕は、「もっとおじさん」に背中を向け、そこでいち早くラテ派に鞍替えをしたのだった。
さすがに、「まっきゃあーと!」という勇気はなかったが、以降「ラテ」はすっかり自分のコーヒー文化として定番化していったのである。

もう一ついうと、スタバ、タリーズなど、雨後の筍のように出てきた新コーヒーチェーンでの徹底比較の飲み比べをした結果、第一位に輝いたのは、なんと馴染みの「ドトール」だった。ドトールは、最後まで喫煙を許していたもくもくおじさんのカフェという印象が強く僕もたばこは嫌だな、とは思ったものの、若き日の課長のご指導の賜物なのか、それともうちの次女が一時期ドトールでアルバイトしていたひいき目によるものなのか、ここのラテが一番気に入っている。

その後もコンビニで革命的コーヒーを出したり(しかも結構おいしい)、マックのひどかったコーヒーも急においしくなったり、名古屋出張のモーニング定番だったコメダ珈琲が全国展開したり、パンケーキが看板のファミレス風喫茶が誕生したり、ネスレがオフィス、家庭用に「バリスタ」というカートリッジ式リッチコーヒーを打ち出すなど、コーヒー文化の勢い拡大は留まるところを知らない。

男は鼻歌まじりに湯を注ぐ

そんななか、今、マイブームなのが、自宅で薬缶にお湯をたっぷり入れて火をかけ、ドリッパーにセットしたペーパーフィルターにギーコギーコと一生懸命挽いた香り豊かな豆の粉を寝かせ、その上からしゅんしゅんと湧いたお湯を、昔喫茶店のマスターがやっていたのを思い出しながら、「おいしくなあれ」と念じながら、寡黙に、ゆっくりと、ぐるぐる注ぐマイドリップコーヒーなのである。
一時期、バリスタも楽しんでいたが、やはり「カセット、ポン」はいろいろなフレーバーを楽しめるのはいいけど、何か物足りなく、むしろこのドリップの手間がコーヒーの楽しさ、おいしさを深めるのだ。

Day Tripperの替え歌「デイドリッパー、イエイ」を口ずさみながら(さびのところ以外は歌詞がわからないので鼻歌だが)、楽しむマイコーヒーは、まさに至福のひととき、長く曲がりくねった道を経て辿りついた我がコーヒーの最高峰なのである。

ゴールデン横丁の仲間たち | 村上 百歩(むらかみ ひゃっぽ)

https://goldenyokocho.jp/articles/2334

自分や身の回りのことを中途半端な長さのエッセイにするのが趣味の変人経営者、村上百歩(むらかみ・ひゃっぽ)氏。変人とは半分謙遜、半分事実なのは長年の友人であるゴル横会長の良く知るところなり。

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