【村上百歩の楽しいおじさんライフ】五島プラネタリウム

【村上百歩の楽しいおじさんライフ】五島プラネタリウム

エッセイストにして経営者でもある村上百歩氏が同世代のおじさん仲間におくるエンターテインメント・コラム。今回はプラネタリウムの想い出と発見!


思い出

プラネタリウム 投影機

子供の頃、プラネタリウムに連れていってもらったことを鮮明に覚えている。

渋谷の東急文化会館(今はヒカリエ)の上の方の階に、五島プラネタリウムというのがあって、小学校四年生の時に母親に連れていってもらったのである。

 入場すると、ドーム型の室内が、壁から天井へレンガで積み上げたようにできている。椅子に座ると、ずずっと後ろに倒れる。今でいえばリクライニングだが、当時はそんなものはなかったので(もしくは、子供だったので体験したことがなかった)、それだけでもわくわくが始まったのだ。

 アナウンスとともに投影が始まると、渋谷から四方を見た景色がぐるっと自分を囲んでいるのに気がつく。
東京タワーや、新宿の高層タワーや富士山など、何度も首をぐるぐる回して見渡していると、次第に夕日が西に沈み、あたりは薄暗くなってくる。もうこれだけで
「すごい、すごい!」
と心の中で叫んでしまうのだ。

そして、その日の暦通りの位置に月が出て、宵の明星、金星、火星に続いて、夜空に星が光りだす。憎いのは、まずは東京の深夜に晴れていれば見られるだろう星空を投影しておいてから、「もし東京にスモッグがなかったら」という星空にランクアップする演出だ。
 一瞬にして、闇は深くなり、星は輝き、その数は数十倍にも増える。
今まで、本で読んだことはあっても、ぴんと来なかった
「吸い込まれるような星空」
とは、このことか、というような星空に息を飲む、といった、にわか文学世界にあっという間にひきずりこまれるのである。

天の川

天の川、って、正直、なんで川というのかよくわからなかったけど、なるほど、こんなに漆黒の夜空に白い筋が流れているのは、まさしく川なのだな、と都会の子供は、忙しく感動するのである。きっと口をぽかんと開けて見上げていたに違いない。

古代ギリシャでもエジプトでも、モンゴルでも、父親が
「あの方角を見てごらん、あの赤い星の下に星はいくつ見えるかな?」
「ううん、三つ?」
「ほう、よく見えたな、おまえの視力は2.0だ」
などと、子供の視力検査をしていた、その星空だ。

かけがえのない星空

そして、星の等級の話、星座の話。それからは今月のテーマについて説明があったあと、しばらくクラシック音楽を聴きながら星が動いていくのを眺める時間があって、夜が明けていくのである。

もう言葉にできないぐらいむちゃくちゃ感動して、それからは、日曜のお出かけは、デパートの上の階でお子様ランチを食べてから、母と妹が買い物、父は本屋、そして僕はプラネタリウム分のお小遣いをもらって、一人で東急文化会館へ向かうことになったのである。そして、見渡すと、僕だけでなく、同じような宇宙少年たちも、日曜日の午後、一人で鑑賞していたものだった。

だが、渋谷の街は次第に、ファッションの街に変わり、プラネタリウムの入場者は年々減少して、21世紀を迎えると、ついに閉館のさだめを受けることになる。そして、僕も渋谷通いから卒業することとなった。

 ここから三十年の時を経て、あまりに僕がこの頃のプラネタリウムの感動話を繰り返しするものだから、最近、家族から誕生日プレゼントに小型プラネタリウムを買ってもらった。寝室で星空が見られる素晴らしい機能。リクライニングチェアもある。クラシックの音源もたくさんある。渋谷の様子はグーグルマップで360°見渡すこともできる。それはそれで楽しいし、嬉しかったけど、繰り返してみるうちに、あの五島プラネタリウムで見た星空が、あの時間がますます懐かしくなっていくのだった。

渋谷 スクランブル交差点

渋谷よ、永遠に輝け!

今の渋谷を見ても、そんなものがあったことを想像することすら難しい。
この歳になると渋谷自体行かないし、行く気にもならないし、用事も無い(正直いうと、ちょっと怖い)。かぼちゃ祭り(ハロウィーンともいう)のニュースが流れるたびに、
「今、まだプラネタリウムがあったとしても、行かねえだろうなあ」
とため息が出るばかりである。

 ところが、最近になって、当時の文化会館から渋谷駅をはさんで反対側に、コスモプラネタリウムという設備が出来ていて、しかも、なんと、当時の五島プラネタリウムの投影機器を引き継いでいるということを遅まきながら発見したのである。しかもそこで現在投影している人たちは、僕と同じように、幼いころにプラネタリウムに心躍らせた宇宙兄弟姉妹たちだというではないか!なんという迂闊!なんという驚き!

ゴル横の同志たちの中にも星空少年少女はいるに違いない!あの喧噪とした渋谷の街を潜り抜け、もう一度、あの星空の下でわくわくしようではないですか!

ところで当時は思いが至らなかったのだが、この「五島プラネタリウム」の「五島」は、かの東急グループの創業総帥者「五島」氏、数々の会社を乗っ取り、「強盗慶太」と呼ばれた、五島慶太氏にちなんで付けられているそうだ。西武グループの総帥、「ピストル堤」と箱根山戦争を繰り広げたあと、晩年の五島氏が渋谷の文化的発展を願って設立したらしい。強引な手口で恨まれたことも多かったらしいから、その罪滅ぼしか、あるいは少年の頃に見た星空を懐かしんでの気まぐれかわからないが、ずいぶん粋で、ロマンチックなことをしてくれたものである。僕みたいな子供たちが楽しんでいることを知って、きっとあの世で喜んでくれたに違いない。 

思えば、五島氏も、プラネタリウムを創ることで、渋谷をあの永遠に輝く星のように素敵な街に育て、街としての等級をあげたかったのかもしれない。
東急だけに・・・。

ゴールデン横丁の仲間たち | 村上 百歩(むらかみ ひゃっぽ)

https://goldenyokocho.jp/articles/2334

自分や身の回りのことを中途半端な長さのエッセイにするのが趣味の変人経営者、村上百歩(むらかみ・ひゃっぽ)氏。変人とは半分謙遜、半分事実なのは長年の友人であるゴル横会長の良く知るところなり。

関連する投稿


ローリング・ストーンズ/The Rolling Stones - Start Me Up - 1981年

ローリング・ストーンズ/The Rolling Stones - Start Me Up - 1981年

アイデアを思いついてからリリースまで5年かかった作品。 1962年のデビューから半世紀以上の歴史を築き上げ、現在も現役のロック・バンド。ブルース/R&Bをベースにパンクやレゲエ、ディスコなど時代の音楽トレンドを上手く取り入れつつ、数多くのヒット作を出してきた、言わずと知れたレジェンドです。81年当時のメンバーはミック・ジャガー(Vo)、キース・リチャーズ(G)、ロン・ウッド(G)、チャーリー・ワッツ(Ds)、ビル・ワイマン(B)。


ベリンダ・カーライル/Belinda Carlisle - Leave A Light On - 1989年

ベリンダ・カーライル/Belinda Carlisle - Leave A Light On - 1989年

世界各国でチャートインしたヒット作。 ベリンダ・カーライルは女性バンドとして初の全米1位に輝いたガールズ・ロックバンド、The Go-Go'sのリード・ヴォーカル。1985年のバンド解散後はソロ・デビューし、ポップな音楽性で多くのヒット作を放ちました。


エックス・ティー・シー/XTC - Mayor Of Simpleton - 1989年

エックス・ティー・シー/XTC - Mayor Of Simpleton - 1989年

アメリカ進出を狙った意欲作。 XTCはアンディ・パートリッジ(Vo,G)を中心とするロック・バンド。1977年デビュー。ビートルズなどの影響を受けた、ポップなのにどことなくひねくれた、イギリスらしいロック・サウンドで人気を集め、ブラーに代表される90年代のブリットポップにも大きな影響を与えました。また、日本ではカルト的な人気を誇り、多くのミュージシャンが彼らの影響を公言しています。


ケイト・ブッシュ/Kate Bush - Babooshka - 1980年

ケイト・ブッシュ/Kate Bush - Babooshka - 1980年

イギリスを代表する女性アーティストの神秘的なヒット作。 ケイト・ブッシュはイギリス出身のシンガー・ソングライター。ピンク・フロイドのギタリスト、デヴィッド・ギルモアに才能を見出されて1977年に弱冠19歳でデビューし、独自の感性によるアーティスティックな楽曲とハイトーンな歌声で、デビュー曲「嵐が丘」が全英1位になるなど早くから注目を集めた天才肌です。現在も寡作ながら活動を続けています。


ブライアン・フェリー/Bryan Ferry - Let's Stick Together - 1976年

ブライアン・フェリー/Bryan Ferry - Let's Stick Together - 1976年

ブルースの名曲をフェリー流にカバー。 ブライアン・フェリーはイギリスのロック・バンド、ロキシー・ミュージックのヴォーカリスト。バンドのほとんどの曲を手がけたソングライターとしても知られます。黒人音楽に大きな影響を受けて確立した、音と音の隙間を縫うような独特な歌と、ヨーロッパ的美意識がにじみ出る作風の曲で人気を集めました。


最新の投稿


500 | アバルト - トレードマークのサソリがアツい走りをイメージさせる

500 | アバルト - トレードマークのサソリがアツい走りをイメージさせる

イタリアの国民車フィアット500をカリカリにチューニングして人気を博していたのが、カルロ・アバルト率いるアバルト社だ。


昭和 死語の世界 ~ダビング~

昭和 死語の世界 ~ダビング~

懐かしくてちょっと痛々しい…昭和に咲き誇り、今や死に絶えた言葉を紹介する「死語の世界」。今回は好きな音楽や映画が見たいと、誰もが躍起になった行為、「ダビング」をご紹介しよう。


シボレーインパラ 1959

シボレーインパラ 1959

昭和を感じる生活用品や、家電、建物など、庶民文化研究所所長 町田忍画伯が描くイラストコレクション「昭和レトロ画帖」。今回は古き良きアメ車の雰囲気を色濃く感じるシボレー・インパラをご紹介。


【クルマニアックイズ】281本目

【クルマニアックイズ】281本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!


【クルマニアックイズ】280本目

【クルマニアックイズ】280本目

あなたの車愛を試すガチンコ三択クイズ!今すぐチャレンジ!