
ABLE搭載機並みのキャリブレーション機能が標準コンポサイズに
以前取り上げたZX-7と対極にあるのが、このCR-70と言えるでしょう。ZX-7はユーザーにマニュアル操作でテープ性能を引き出す楽しさを体感してもらおうと、操作ボタン、ボリュームをパネル一杯に並べました。他方、CR-70はカセットテープをセットして、【オートキャリブレーション】のボタンを押すだけで、最良の状態に設定されるのです。ZX-7より若干小さいサイズでオートキャリブレーションを実現しました。個人的にはもっと評価されて良いモデルだと思います。

テープファンすべての夢をかなえる、完璧なまでの録音・再生マシン カセットオーディオに捧げる不朽のプレゼントです。

このCR-70というモデルは1985年の発売。新しい音楽ソースであるコンパクトディスク、そのCDプレーヤーが発売されたのが1982年。それまではレコード、ラジオといった、アナログソースが音源として設計されていましたが、このモデルはCDというデジタルソースも対象に入れ、設計されたカセットデッキなのです。レコードプレーヤーの再生に必要な儀式に対して、対するCDはディスクをトレイに載せて、再生ボタンを押すだけ。曲送りもリモコンでワンタッチです。マニュアル調整機能を屈指し時間を掛け、カセットテープの性能を追求するというルーティーンは相応しないと考えたのでしょう。
録音準備であるキャリブレーションは、テープを入れて[オートキャリブレーションボタンをワンタッチで完了。基本操作は、付属リモコンで可能になり、リアルタイムテープカウンター表示、再生アジマス調整機能など、これまで搭載されなかった多くの便利機能がぎゅっと組み込まれたのです。
オートキャリブレーション

CR-70が目指したオートキャリブレーションは、ZX-7のマニュアル調整で特性をシビアに追い込んでいくのと同様かそれ以上の高精度が得られ、それでいて操作はシンプルにというものでした。オートキャリブレーションのフロー図をみると、
・再生ヘッドのアジマス調整(400Hzを録音し、再生信号のLRを位相合わせ)
・レベル調整
・バイアス調整
このステップを2回繰り返します。
試しにオートキャリブレーションを実施して、所要時間を測ったところ、約15秒ほどでした。ZX-7のマニュアル調整での実現は、かなり難しい数値だと思います。
キャリブレーションで、特に重要なのが最初のステップである「アジマス調整」です。2ヘッド機では問題にならないのですが、3ヘッド機でのキャリブレーションでは要になります。カセットテープでは、ハーフやガイドの成形状態の違いにより、テープの走行状態が微妙に変化し、10分(1/6度)程度のアジマスずれを引き起こす可能性があり、コンビネーション3ヘッドでは対応が出来ないのです。そして、アジマスがずれたままキャリブレーションを行うと、高域の再生レベルが低下。これを補うためにオートキャリブレーションでは、バイアスを浅めにして高域をレベルアップ。通常のキャリブレーション時の低いレベルではフラットに調整できますが、実際の音楽で録音すると高レベル域でテープが飽和して高域がレベル低下し、高音質再生が出来ないという訳です。
ナカミチでオートキャリブレーション機能を持つモデルは、すべてアジマス調整項目あり、一番初めに実施される理由なのです。
再生アジマスファインチューニング

この再生アジマス調整機能が最初に搭載されたのはDRAGON。しかも自動調整されるNAACに度肝を抜かれたのですが、その機能を手動調整にすることでシンプル且つ安価に実現させたのがCR-70でした。技術的にDRAGONと同じ自動にすることも出来たはずですし、簡単操作をセールスポイントとして謳っていますから、キャリブレーション機能だけでなく、再生アジマスを含めた『オール自動化」を狙っても良いはずです。しかし、価格的にDRAGONより高額になってしまうのは明白で、併売していたDRAGONとの商品ラインナップ上の棲み分けから非搭載にしたと思われます。
ちなみに、ホームオーディオでCR-70以降の再生アジマス調整機能が搭載されたモデルはCassetteDeck1(1990年発売)、DR-1(1993年発売)の2モデルのみです。
カセットデッキの基礎技術

ナカミチは1982年に、戦略的プライスを付けたBX-2、BX-1というモデルをリリースさせました。その際、コスト低減のために内製メカである「オリジナル・サイレント・メカ」から、通称「三協メカ」といわれる買い入れメカに切り替えました。しかし、そこはナカミチです。その系譜をブラッシュアップした最上位モデルがCR-70なのです。
オリジナルメカから三協メカ、そしてヘッドの変遷はそれだけでかなりのボリュームになってしまいます。それは、また別の機会に紹介できたらと思います。
ファンクション

これまで、ナカミチのカセットデッキは良くも悪くも素人を寄せ付けない雰囲気があり、実際の使用において、お世辞にもユーザーフレンドリーとは言えない操作系だったと思います。それが、真逆と思えるほどユーザーに寄り添う機能が満載されたのが、CR-70でした。
[ワイヤレスリモコン]
最初に取り上げるべき機能はワイヤレスリモコンでしょう。後にも先にも、オプションではなく標準装備としてワイヤレスリモコンが付属したのはCR-70のみです。同時期に発売されたCDプレーヤー機であるOMS-70と同意匠で、これまでのリモコンとは全く異なるテイスト。拘ってのデザインだと思います。(1~3、5番目の画像をご参照ください)
また再生アジマスファインチューニングも、このワイヤレスリモコンから操作できた点も評価できます。実機に赴いて操作することなく、リスニングポイントで調整出来るのです。
[リアルタイムテープカウンタ]
このリアルタイムテープカウンタも、唯一CR-70だけに搭載された機能です。かつて、ポータブル・カセットデッキの550というモデルで、テープ残量がアナログメーター表示される機能がありましたが、CR-70では分秒がデジタル表示する機能が搭載されていました。最近ではカセットデッキでエアチェックすることは無いと思いますが、当時はとても便利な機能だったと思います。表示モードは経過時間、残量時間以外に従来の4桁カウンタ表示も可能になっています。
[オート&マニュアルテープ/イコライザーセクション]
ナカミチ以外のメーカーでは当たり前に装備されていた機能です。テープ検出孔で判断してノーマルテープ、ハイポジションテープ、メタルテープを自動で切り替えます。テープ検出孔が無いテープではマニュアルモードにすることで、テープポジションとイコライザーを手動で設定することが出来ました。
[FL集中ディスプレイ]
これまで、標準サイズの筐体ではドルビーの設定状態がLED表示される程度で、テープポジション、モニターなど知りたい情報は、スイッチノブの位置を確認したり、押しボタン式のDRAGONでは何度もスイッチを押してスイッチノブの状態を指先で確認したりする必要がありました。
それがCR-70では、ほぼ全ての設定が表示されるようになっています。
CR-70/CR-50機能比較
CR-70には弟分としてCR-50というモデルがありました。CR-50はCR-70からオートキャリブレーション、アジマス・ファイン・チューニング、リアルタイムカウンタ、オートフェード機構、ピークホールド機能、ワイヤレスリモートコントロール機能、サブソニックフィルタを非搭載にした廉価モデル。しかしながら、DDモーター、ディスクリート3ヘッド、デュアルキャプスタンといった基本性能に関する部分は残されています。

一部コアなユーザーの中には、機能が削ぎ落とされた分、CR-70より音が良いといった意見もあるようですが、中古市場で流通する数量はCR-70に比べかなり少なく、入手するのが難しいモデルです。自己録再のみなので再生アジマスを変える必要が無いし、直接操作するからリモコンも不要、バイアスを手動調整するのでオートキャリブレーションも不要。CR-70より6万円安価な下位モデルというポジションだけど、敢えてCR-50を選ぶという『漢のモデル』と言えましょう。
