『こんなものを買った』Technics SL-5

『こんなものを買った』Technics SL-5

前回ご紹介した「SL-MA1にXL-MC1プロジェクト」の裏で進行していたプロジェクト、それが「リニアトラッキングを試聴室にプロジェクト」でした。レコードプレーヤーの歴史を改めて調べているうちにリニアトラッキングが気になって仕方なくなってしまったのです。


もう、気になって気になって。

国産オーディオの偉業のひとつ…だと思います

レコードプレーヤーの歴史をたどっていくとどうしても気になってしまうのが「リニアトラッキング」という方式です。
(ベテランオーディオマニアの方には釈迦に説法となってしまいますので、次の章にお進みください)
いまさら改めて言うまでもなく、そもそもレコードは再生が非常に難しいメディアです。
正確にターンテーブルを回して、音溝に対しまっすぐに針を当て(普通のトーンアームでは無理なのですが)、信号を余すことなく拾っていく…。しかもそこにはインサイドフォースやレコード盤の反り、センターホールのズレなど、構造やレコード盤そのものに起因する外乱があります。つまりプレーヤー周りでどんなにセッティングを突き詰めても完璧なレコード再生は不可能、と言い切って良いでしょう。
その反動か最近の若者は、ゆるーいレコードプレーヤーで気軽に再生を楽しむ、なんていう文化もあって、それはそれで正しいレコードの楽しみ方なんでしょうね。
それはともかく、上記の数ある問題の中でもこいつはなんとかしたい、と多くの技術者が考えていたのが「トラッキングエラー」という問題。
そもそもステレオ信号は左右それぞれの音声信号が一組となって再生されます。レコードでいえばV字に切られた溝の左右の斜面の信号を同時に読取ることでステレオの信号になるわけです。
ところが、針先は常に溝に対してまっすぐ接しているわけではありません。むしろレコード再生中、溝に対し針先がまっすぐに接しているのは一瞬で、それ以外はアングルがついた状態で信号をトレースしています。つまり左右の信号に時間差が生じてしまうのです。これがトラッキングエラーと言って、結果として左右のスピーカーから出てくる音に時間差がついてしまう、という現象が起きます。
といっても、通常のプレーヤー最大のトラッキングエラーが生じたときでも、スピーカーの左右差は、ほんの数センチ、スピーカー位置がズレたことに等しいといわれ、つまりよほどスピーカーのセッティングを詰めてもトラッキングエラーを聴き取ることは不可能、といっていいでしょう。
だとしても当時の技術者の方々は妥協しませんでした。そこでトラッキングエラーを解消すべく考え出されたのが、針が常にレコード溝に対しアングル角0になる「リニアトラッキング」という方式だったのです。ふー、長かった。

リニアトラッキング初体験

1978年、後にGTシリーズを生み出す天才技術者、松本豊作氏が作り出したヤマハPX-1。

yamaha px-1

またおなじく1978年、オーディオ御三家のパイオニアはPL-L1を発売します。

パイオニア PL-L1

その翌年には前回ご紹介したテクニクスのSL-10が登場し、リニアトラッキングは全盛期を迎えました。
完璧な再生を目指したこの姿勢、志、じつに心に響きます。さあ、リニアトラッキングのプレーヤーが欲しくなってきたでしょう!
ところがPX-1(や後継のPX-2、PX-3も)、PL-L1、SL-10いずれも銘機として中古市場でもものすごい高値で取引されています。
新品時10万円で大ヒットし、それなりの台数が出回っているはずのSL-10ですら、ちゃんと動くものは4~5万円はします。
でもご安心ください。
他のメーカーが(ミニコン用プレーヤーを除くと)ほんの数モデルでやめたリニアトラッキングですが、テクニクスだけはものすごいラインナップを展開したのです。
その中でとくに高値で取引きされているのは、SL-10を除くと、木目キャビネットを持つSL-M3くらいで、あとは運が良ければ完動品が1万円以下で入手可能です。
ちなみにSL-M3はこんな感じ。カッコいいですね!

テクニクス SL-M3

テクニクスのリニアトラッキングプレーヤーは、フルサイズかジャケットサイズ、ダイレクトドライブ(DD)かベルトドライブ、回転制御がクオーツロックかDCサーボというように分けられます。個人的にDD好きなので、完動品のDDでなるべく安いものを探します。
ヤフオク!やメルカリをウォッチし続けて約1カ月。ようやく見つけたのがこれ。SL-5です。

テクニクス SL-5

まさか専用ケーブルだったとは

メルカリで5000円。カートリッジはダメかも、とのことでしたが、大丈夫、試聴室にはSL-MA1の純正T4Pカートリッジがあります。ただカートリッジを外すとSL-MA1が使えなくなってしまいますので、前回ご紹介した一般カートリッジ用ヘッドシェルを用意した、というわけなのです。

T4Pカートリッジの交換は、アームにあるネジを外し、カートリッジを差し込み、再びネジを締め込むだけ。
ケーブルは直出しではなく、ピンジャックがついてます。

とりあえず、送られてきた箱に同梱されていたピンケーブルをつなぎますが、アースは?? ピンジャックの横の穴はヘッドフォンのミニジャック? まさかアースじゃないよね…。
筐体の左右、裏側まで探しましたが、通常のネジ式アース端子はなく…。仕方ないのでピンジャックだけつないで聴いてみます。
おお、音は出てますが、ブーンというハム音が…。やっぱりあの穴がアースだ。試しにむき出しの導線を突っ込んで、アンプのグランド端子につなぎます。
きれいな音じゃないですか!
いろいろと検索してみるとSL-10のアース端子を自作した人のページが出てきました。
SL-10のアースも穴が開いているだけで、ピンプラグとアース用の端子が一体となった特殊なケーブルが付属されているみたいですね。このサイトの方はその付属ケーブルを使うのが嫌で自作したようです。そのウェブサイトによると、このアース用のジャックはピンプラグ真ん中の棒と同じ太さだそうです。この方はピンプラグをバラバラにして、真ん中の部分に線をつないで作ってました。
では、ということで私も。

見た目はいまいちですが、なんとか使えそうになりました。
ではつないでみます。

意外と安定感のある音!

リニアトラッキングはもともとはトラッキングエラーとインサイドフォースをどうにかしよう、という方式だったはずです。ただSL-10は、あの工芸品のようなアームを使わなくてすむ、という利点を活かし、アーム機構をダストカバーに組み込んでしまったものでした。つまり省スペース。SL-5も音というより、デザインやコンパクトさに重点が置かれています。
それは重々承知だったのですが、実際にレコードをかけてみると、意外と安定感のあるしっかりした音にびっくり。

ダストカバーを締めた状態でも針がどの位置にあるかわかるようにLEDがアームについています。演奏中の様子を覗いてみると、カートリッジがけっこう左右に動いてます。
SL-5はカタログによるとトラッキングエラーが0.1度になると光学センサーで感知してアームの基部をモーターで動かす仕組みだそうです。
図はナショナル・テクニカル・リポートVol.26に掲載されたSL-10のものですが、SL-5も大体同じと考えてよいでしょう。

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