DRAGON/Nakamichi – カセットデッキのエポックメイキング・モデル

DRAGON/Nakamichi – カセットデッキのエポックメイキング・モデル

ナカミチで代表するカセットデッキを1台選べといわれたら、やはり「DRAGON」以外にないでしょう。今回は、そのDRAGONについて、掘り下げてみたいと思います。


ナカミチ DRAGON

モデル名について

ナカミチのモデル名は、数字又はアルファベットと数字を組み合わせたモデルになっています。ナカミチ株式会社となる前の株式会社中道研究所から、「ナカミチ」ブランドとして最初にリリースされた、記念すべきカセットデッキが「1000」でした。
「1000」というモデル名は、以降ナカミチでホームオーディオのトップモデルのみに使用が許されるモデル名になりました。実は「ナカミチ」ブランド以前にリリースされたモデルもあるのですが、その話はまた別の機会に紹介出来たらと思います。

さて、前述したモデル名の命名則から外れるモデル名がアルファベットのみで構成される機種であり「DRAGON」を含め、数えるほどしかありません。確認出来る範囲では「DRAGON」「DRAGON-CT」「DRAGON-CD」「DRAGON-DAC」「DRAGON-PS」「Compact MusicSystem」「ClockRadioSystem」の7モデルとなるのですが、そのうちの5モデルは「DRAGON」シリーズです。

このDRAGONというモデル名の由来は諸説あります。諸説あるというところが既に神秘的であり、DRAGONらしいといえます。

説として
説1 社内の開発コード名である「DRAGON」がそのままモデル名となった。
説2 DRAGONは社内で特別なモデル名であり、エポックメイキング的な技術を採用したモデルに付けられた。
真相は「ステレオ時代VOL.3」では明言されていませんでしたが、今回筆者が元ナカミチの方に確認したところ、「あまりのユニークさ、中道会長の長年の夢であるオート・アジマス・コレクションが完成したことで、開発コードのDRAGONがそのままモデル名となった」ということでした。つまり、どちらの説が正しいという1択では無かったのです。開発コード名がモデル名になるのは、後にも先にもDRAGON以外にありませんでした。もし、仮に開発コード名ではなく従来の慣例に沿って数字や英字と数字の組み合わせによるモデル名だったとしたら、何になったのでしょうか。色々と妄想は膨らみます。

キャプスタンモーターについて

ナカミチ ドラゴン サービスマニュアル

ナカミチの歴史で、優秀なエンジニアリングにより、数々の革新的な技術が発明・開発されました。その中のひとつに、DDモーターがあります。
これまで、キャプスタンモーターに使われてきたのはDCサーボモーター、PLLサーボモーターでした。ナカミチは新しい技術が生まれても、既存の技術より一部でも性能が劣る場合は採用されませんでした。そして、満を持して世にリリースされたのが「ブラシレス/スロットレス/コアレススーパーリニアトルクD・Dモーター」なのです。

これまでのサーボモーターは、フライホイールやベルト駆動によりワウ・フラッターを軽減させることで、聴覚的に分りやすいフラッター成分を抑えることが出来たのに対し、直結であるDD(ダイレクトドライブ)はモーターの性能がダイレクトに出ます。モーター単体ではサーボモーターよりも、DDモーターのフラッター成分は少なかったのですが、実際にメカに組み込むとサーボモーターに対する優位性が逆転していたと推測します。その解決策が、モーターの永久磁石を星形に着磁するというアイディアでした。

モーターが完成し、組み込んで終了かというと、そう簡単ではありません。ワンウェイ・デッキでは、テイクアップ側キャプスタンにDDモーターを組み、そのフライホイールとテイクアップ側フライホイールにベルトを掛ければ、双方のキャプスタン速度はフライホール径とキャプスタン径により決まります。しかし、DRAGONはリバース機ですから、反転した時にキャプスタンのテイクアップ側とサプライ側が左右入れ替わります。つまり一意的に速度比が決まってしまうベルト掛けは、
採用出来ないのです。ちなみにワンウェイ・デッキであるZX-9などでは、DDモーターにベルト掛けになっています。

この理由から、左右別々にDDモーターを奢ります。さらに2つのDDモーターは、正転/逆転時に適正なテープ・テンションを掛けるべく、速度を制御してサプライ側を遅くする必要があります。これが正確に制御できないと、安定したテープ走行が保証出来ません。キャプスタンモーターに採用されたDDモーターは、非常に高度な技術の上で成立しているのです。

NAACについて

ナカミチ ドラゴン 販促資料

DRAGONのもう一つの画期的技術が、NAAC(ナカミチ・オート・アジマス・コントロール)というものです。他のメーカーはコンビネーション・ヘッドを回転させることでリバース機能に対応していましたが、アジマス精度に拘るナカミチはこれを許しませんでした。回転角のズレはアジマス、回転軸のガタツキはヘッドのあおり/ハイト/アジマスに対して影響を及ぼします。そこでヘッドを回転させないために採用されたのが、4トラックヘッドでした。

しかし、それでもまだアジマス精度に拘るナカミチは納得しませんでした。カセットテープはシェルの精度によりA面、B面でアジマスが変わります。そのため、録音ヘッドのアジマスが(自動/手動)調整できるモデルの取扱説明書には、テープ面を替えたら再調整することが記載されています。

そこでエンジニアは、1トラックを2分割して、位相を測定し、位相ズレを無くすことでアジマスを合わせられると考えたのです。アイディアで思いついたとしても、只でさえ狭いトラック幅を半分にし、精度を満足させるヘッドの製造は、容易で無かったと思われます。
しかも、これまでの録音ヘッドアジマスを調整するモデルでは、内蔵オシレータ信号を録音、再生して合わせていましたが、再生時にはその方法が取れません。そのため録音テープに含まれる特定の周波数を抽出し、位相を検出することで解決させました。

ちなみに、MARANTZからも、再生ヘッドを動かしてアジマスを合わせるというNAACと同じ機能を持ったDS-930というモデルがありました。DS-930ではその機能を(MAAC)と呼び、再生ヘッドのアジマスを駆動する機構はナカミチがモーターであったのに対し、マランツはビアゾ素子(電圧を掛けると物理的に変位する素子)を使用していました。

基本的にテープデッキは自己録再がベストです。他のデッキで録音したテープを再生する場合に、高音不足やドルビー利用時の不自然な音を感じたことは無かったでしょうか。これは録音デッキのアジマスと、再生デッキ間のアジマス不整合という理由が多いのです。このことは市販のミュージックテープ再生時にもあてはまります。録音された本来の音を聴くために、カセットデッキ上級者ともなれば、本来ユーザーに調整が許されていない、再生ヘッドのアジマスを調整するという荒業で実現可能でしょうが、通常は無理な手法です。このNAAC搭載のDRAGONであれば、カセットを入れて再生ボタンを押すだけで、数秒後にはアジマス調整が完了し、録音済みの音が最良の状態で再生される。実に凄いことだと思います。

再生時のみリバースである理由

ナカミチ ドラゴン アクセサリー

ここまで積み上げてきた技術により、実現することが出来たリバース対応ですが、なぜ再生時のみ対応なのでしょうか。次の理由があったと推測します。

録音・再生コンビネーション・ヘッドで回転する方式ならば、ヘッドが占有するスペースはワンウェイ機とほぼ変わらないのですが、ナカミチは録音と再生に最適な性能を得るため、独立3ヘッドを採用しています。DRAGONも例外ではなく独立3ヘッドです。しかし、アフターモニターや録音時のNAAC動作させるためには、再生ヘッドの手前に録音ヘッド、録音ヘッドの前に消去ヘッドを配置する必要があります。つまり、リバース用に録音ヘッドと消去ヘッドが、もう一組必要になるのです。ところが、限られたカセットハーフでは、そのスペース確保が出来なかった。

専用の再生ヘッド、2つのDDモーター、6チャンネル分の再生アンプなど、これだけでも従来のワンウェイ機よりも相当コスト面で不利な状況ですが、もしヘッド取り付けスペースを確保する事が出来たなら、この部材コストは然したる要因にならなかったかもしれません。
また、DRAGONを発売した翌年、RX-202/RX-303/RX-505というユニ・ディレクショナル・リバース機が販売開始されました。こちらは、カセットテープをひっくり返すというコロンブス的発想で、録音リバースに対応しました。DRAGONから録音リバース機能を外したのは、その後にリリースされる録再リバース機との、棲み分けという販売戦略があったのかもしれません。

再生ヘッドについて

ナカミチ ドラゴン ヘッド

ナカミチ・オリジナル・サイレントメカのディスクリート3ヘッドモデルに使われた再生ヘッドは基本的に1モデルでした。基本的にと記載したのは、元ナカミチのヘッド担当エンジニアにお会いした際に、内部的にバージョン違いが存在するという情報を得たからです。バージョン違いはありましたが、換装作業は可能でした。DRAGONの再生ヘッドは前述したように、4トラック2チャンネル(Rチャンネルは2分割)という特殊なヘッドです。しかも、DRAGON以外のモデルでは使われておらず、DRAGON専用ヘッドということになります。ナカミチに詳しい方でしたら、カーオーディオでNAAC搭載機のTD-1200のヘッドなら換装出来ると思われたかもしれません。実は私も同じことを考えたのですが、前述の元ナカミチのヘッド担当エンジニアに質問したところ、残念ながら再生ヘッドは別モデルであり、換装出来ないとの回答でした。さらに、修理サービスにも再生ヘッドの在庫ナシということですから、DRAGONの再生ヘッドはとても貴重です。オーナーの方は、今後大切に使って頂きたいと思います。

ナカミチ ドラゴン カタログ

画期的な機能を持ったモデルであるDRAGON。ナカミチの歴代モデルの中で、発売価格27.8万円(価格改定後は26万円)という高額であったにも関わらず、1982年から1991年という長い期間に渡って販売されるモデルとなりました。世に数多あるカセットデッキの中で、40年近く経った現在もな魅力を失わず、愛され続けるカセットデッキが他にあったでしょうか。

ゴールデン横丁の仲間たち | toby(トビー)館長

https://goldenyokocho.jp/articles/1877

ナカミチの魅力にすっかり憑りつかれ、カセットデッキのコレクションはコンプリート間近に迫っている。ほかにもアンプやレコードプレーヤー、CDプレーヤーにDATそしてFMチューナーに至るまでフル・ナカミチのオーディオセットを所有。至福のリスニングルームに籠れば時間の経つのをつい忘れてしまうという。

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