
今回の研究対象:≪にんじん≫
『にんじん』といっても、もちろん野菜のニンジンではない。まったくの無関係というわけではなく、パッケージが野菜のニンジンを模した配色・形状となっていて、その中にポン菓子がみっちり充填されている。真空処理されているのか、内容物に遊びはほぼない。
商品の名称はシンプルに【菓子】。製造者は【タカミ製菓】だ。今回入手した『にんじん』はパッケージの面白さを重視してタカミ製菓のものだが、うまい棒などで有名な『やおきん』のにんじんの中身も、以前から変更されていないかぎりタカミ製菓が製造元。
やおきん版はポップなフォントにかわいらしいウサギのキャラクターが描かれている。トラディショナルなにんじんをご所望なら、迷わずタカミ製菓版を購入しよう。
2018年版のやおきん法人向けカタログではにんじんの品名に『PB/NEW*』の表記があるが、何がNEWなのかは不明。賞味期限、値段、ケースのサイズまでタカミ製菓と同じなので、消費者には関わりのないマイナーチェンジなのだろう。
ちなみに、やおきんからは容量が65gになった『でかにんじん』が、もっと食べたい場合はタカミ製菓から『ばくだんあられ』という名前で160g入りが出ている。
■【補足説明】ポン菓子について
ポン菓子とは米をはじめとする穀類全般を膨張させたお菓子のことである。米だけでなく、麦や粟はもちろん、栗や大豆、珍しいものではマカロニもポン菓子になる。もちろんニンジン製はない。
地域によって『パン菓子』『ドン菓子』と呼ばれたり、製造時の大きな音から爆弾、大砲とも。私の地域ではなぜか英語呼びの『パフライス』が主流だった(ポン菓子はアメリカ発祥)。
見た目や食感が似ているため、たまに『おこし』と混同されるが、こちらは圧力を加えるわけではないので間違わないようにしたい。
膨張する仕組みはポップコーンと同じで、加熱と加圧を同時に行い、急速に減圧することで内部の水分を膨張させるというもの。これにより、可食部に無数の空洞が生まれ、独特のサクフワッな食感になる。
基本的には専用の機械が用いられるが、ポップコーンはご存知の通り炒るだけで作れる半面、普通のコーンは皮が薄いため圧力に耐えきれず、ポン菓子になる種類は多くない。個人的にはポンタベールが気になる。
ポン菓子といえば味つきの印象があるが、味がついていない場合もポン菓子と呼ばれる。その場合はシリアルやおかゆへの転用、サラダに入れたりと幅広く活用できる。最近では『健康に良いが摂りにくい』ハトムギやキヌア等への技術転用が注目されている等、まだまだ応用できそうだ。
ちなみにポン菓子機はいくつかの企業から購入・レンタルすることができる。日本で初めて製造した会社が現存しているので、気になる方は問い合わせてみるといいだろう。音の問題さえクリアにできれば、昔あったポン菓子売りに誰でもなれる。
■なぜ『にんじん』なのか

駄菓子はビジュアル重視ともいえるが……?
駄菓子には『ともだちわたがし』や『がんばれサッカー』など「何を思ってそのネーミングなのか」と首をかしげたくなる品が多数存在する。最初に述べたように、にんじんも野菜のニンジンとは関係ない。
パッケージはなるほどニンジンなのだが、必然性がないのである。容器は容器であって、大根でもカボチャでもよかったはずだ。そもそも子供が嫌いなものを、なぜ標榜してしまったのか──それを知るためには、現代の野菜事情をまず知ってもらいたい。
■もはやワーストではない! ニンジンは人気野菜になっていた
ピーマン、タマネギ、トマトと共に、子供が嫌いな野菜に名を連ねる根菜『ニンジン』。その独特な食感や不自然な甘みを全面に出し、日本中の子供から嫌われていたと言っても過言ではないはずだ。
反面、栄養豊富で料理の彩りにも欠かせないことから、いかにして子供のニンジン嫌いを克服させるか、長年多くの親が苦心してきた。しかし近年、その事情が変わりつつある。
そう、ニンジンが子供たちに好かれだしたのだ。もちろんアンケートのテーマや対象層によってブレがあるものの、上位五指に数えられることはほぼなくなった。
このアンケートでは、むしろ【好きな野菜】として、男女ともに4割以上の票──総合トップを獲得している。もう子供はニンジンが嫌いという常識は、常識ではなくなったのである。

コズレは5月1日、「子どもの野菜・果物の好き嫌いに関するアンケート」の結果を発表。同アンケートは、離乳食開始以降の未就学児を調査対象としたもの。2017年4月18~25日の期間、インターネット上で行われたもので、420名のパパ・ママから回答を得た。
ネタばらしをすると、これは品種改良によるところが大きい。詳細は研究と逸れるため割愛するが、最近のニンジンは本当に美味しくなった。未だに苦手としている諸兄がいたら、今一度挑戦してみてほしい。
余談だが、鮮度の良いニンジンの皮を剥くと昔は青臭かったが、今はグレープフルーツとライムをあわせてマイルドにしたような香りが心地よい。こちらも是非確認していただきたい。
──とまあ、これだけ書くと駄菓子の『にんじん』と野菜の『ニンジン』が好かれるようになったことの因果関係はないようにも見えるが、私にはどうにも【子供の嫌いなもの】を模したのには「美味しい『にんじん』を食べることで、少しでも子供のニンジン克服の一助になれば」という願いが込められているように感じてしまう。そういうことにしておこうではないか!本当は理由が判然としないから。
ゴーヤ・セロリといったクセが強く、そもそも大人も苦手な人の多い野菜は『にんじん』を見習って、もっと食べやすくなってほしい。
■にんじんを食べよう!

なつかしと自ら名乗っている
食べよう、といっても丸かじりするわけにはいかない。食べるためには開封しなければいけないのだが、一つ問題がある。上から開けるか、下から開けるか──子供の発想を優先しているためか、駄菓子にはこの『にんじん』のように開け口も食べ方も書いていないものがある。
個人的には尖った部分をハサミで切って流し込みたいが、さすがにオフィスでそれは行儀が悪い。今回は上、つまり葉の部分から開けることにした。

葉の部分には袋が広がってしまわないように、緑のシールが貼られていた。シールは手で剥がすことができる。一見こちらから開けてくれと言っているようにも思えるが、切り口がないので結局力任せかハサミで開封することになる。
上からのほうが開けやすいのは事実だが、きれいには開かないことがほとんどだ。やはり個人的には下からを推す。
■シンプル故に飽きがこない

見れば見るほど米そのもの(ただしサイズは1000%)
後に資料を載せるが『にんじん』の材料は非常にシンプルだ。味付けは砂糖と水飴、少量の塩のみ。化学調味料などの混ぜ物は一切入っていない。そこまで強固な包装には見えないが、少しも湿気ていなかった。
一粒口に入れると、駄菓子らしからぬ優しい味がする。味の薄い料理に気を使って『優しい味』と表現することもあるが、にんじんは本当に慈愛を感じる。口寂しい時はもちろん、食欲がない時にもオススメだ。
変に味が口に残らないのでそのまま食べてもいいが、あつ~い緑茶が欲しくなる。もちろんニンジンらしい風味は皆無。さもありなん。
ちなみに『にんじん』に使われている米は国産である。
■そして現実へ
やはりというかなんというか、こういった袋から直接食べることを想定した駄菓子を皿に出すと、食べにくいことこの上ない。久々に購入を思い立った方は気を付けてもらいたい。
そして皿に出して思い当たってしまったのだが、この『にんじん』の包装は、そのまま詰めると容量が少なく見えるのを防ぐためにこの形になったのではないだろうか。
にんじんのパッケージは大人の肘から指先ぐらいの長さがある。なるほどこれなら子供にはさぞ多く入っているように見えることだろう。先細っているのも、名前が上手くカモフラージュしているような気が……。あまり気付きたくない現実だった。
まあこの袋に入れることで食べやすくはなっているし、売り場で目を引くことも確かだ。邪推はよして、純粋に駄菓子ライフを楽しもうではないか。
本当にどうでも良いことなので末筆に記すが、ニンジンを模したパッケージにでかでかと『にんじん』と描いてあるのはなかなかにシュールだ。初見の子供はウケること確実なので、やはり良いパッケージなんだろうと思う。
研究対象≪資料一覧≫

炭水化物9割だ!!!