本日の曲:Pet Shop Boys - West End Girls
全英・全米1位の大ヒットとなったペット・ショップ・ボーイズの代表作。2012年のロンドン五輪閉会式でも演奏され、観衆の喝さいを浴びたのだとか。四角頭のダンサーを従えて歌う、こちらの映像は2009年のライブより。
YouTube 出典:Pet Shop Boys
皆さん、クラブで遊んだりしますか?
店番 :北中さんはクラブで遊んだりしますか?
北中さん:「あら、社長さん、ずいぶんごぶさたね」が口ぐせのママさんがいるような銀座のクラブはよく行きます。映画『社長漫遊記』の世界です。といっても若い人は誰も知らないか。
店番 :えっ⁉ それは意外というか、イメージ合わなさすぎ。
北中さん:でしょ。冗談ですよ。冗談。ご質問のクラブは、平坦に発音するほうのクラブですね。エレクトロニックなダンス・ミュージックがかかってる。
店番 :ああ、びっくりした。そうですよ。お皿を回すDJがいるクラブです。あ、若い人はこの言い方もしないか…。

ペット・ショップ・ボーイズのクリス・ロウ。お皿(アナログ盤レコード)ではなく、コンピュータに入っている音源を直接操作している模様。 Photo: angela n.
北中さん:かつては青山や西麻布のクラブに足を運んだことがあります。旅先のニューヨークやロンドンや香港や台北でも行きました。
店番 :DJもやられるんですか?
北中さん:ええ。選曲重視のDJを頼まれてやったこともあるし、遊びでやったこともあります。最近はライブ・ハウスやカフェ・バーがクラブ的なイベントをやることも多いでしょ。友だちどうしでDJパーティを楽しんでいる人も普通にいますね。
身体全体で聞くとわかる、クラブ・ミュージックの楽しさ
店番 :クラブに足を運んだのはお仕事で?
北中さん:ほとんどそうです。家でレコードを聞いてもおもしろさがわからない音楽が、なぜウケているのか知りたくて行ってみたんです。
店番 :家とクラブでは、聞き方が変わるものなんですか?
北中さん:変わりましたね。音が空間全体から大音量で降り注いでくるので、耳だけでなく体全体で聞く感じ。それは普通の家の再生装置でも、イヤフォンでも味わったことのない感覚でした。
かかる曲もAメロがあって、Bメロに変わって、サビの部分があって、みたいなポップな構成ではなく、リズム中心で、そのくりかえしのパターンが少しずつ変わっていくような幾何学的な音楽が多いんです。リズムの変化の過程でワアーっと盛り上がる部分があったりするのは、クラブに行ってみてはじめてわかったことでした。

2010年のグラストンベリー・フェスティバルでのペット・ショップ・ボーイズ。今やクラブ・ミュージックはロック・フェスでもお馴染みに。 Photo: neal whitehouse piper
クラブというハコを楽器のように使うDJの音作り
店番 :なるほどー。音楽の楽しみ方のポイントがちがうんですね。
北中さん:音楽の作り方も変わりました。クラブ系の音楽のはじまりはニューヨークやシカゴのクラブから生まれた「ハウス」という音楽ですが、ニューヨークの伝説的なクラブだったパラダイス・ガラージュは、フロアの下に砂を敷いて朝まで踊っても疲れないように工夫して作られていました。開店前には照明や音響の設計・調整にすごい時間をかけていたそうです。
ロックでは、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』以降、レコーディング・スタジオや機材も楽器の延長のように使いこなすことが珍しくなくなりましたが、DJたちはターンテーブルやクラブというハコ(場所)まで楽器とみなして音作りをはじめたわけです。
店番 :いまの話を聞くと、ピアノをポロンポロン弾くとか、ギターを抱えてギュイイ~ンとのけぞるとか、そういう音楽と発想そのものがちがうような気がします。
北中さん:DJカルチャーという言葉が使われているくらいですからね。

2009年のニューヨークでのライブ Photo: Vladimir
単独公演は19年ぶり!ペット・ショップ・ボーイズが日本に
北中さん:DJカルチャーといえば、久々に来日するペット・ショップ・ボーイズに「DJカルチャー」というヒット曲があります。クラブでファンタジーの世界に溺れて踊りながら夜が明けるのを待つ人たちのことをうたった歌です。
ペット・ショップ・ボーイズはDJ的な音作りで人気のイギリスのグループですが、この曲はクラブ・カルチャーの中にいながら、クラブ・カルチャーを冷静に眺めているような風刺をこめたシニカルな歌です。
店番 :彼らはイギリスではたくさんのトップ・テン・ヒットがあるエレクトロ・ポップのデュオですね。
北中さん:クラブ系の音楽はアメリカで生まれましたが、当初はアンダーグラウンドな動きでした。しかしイギリスやヨーロッパに渡って独自に成長して、レイヴ・カルチャーと呼ばれるオーバーグラウンドな文化現象になっていきました。
コアなクラブ・ミュージックは歌がないか、あってもくりかえしのフレーズだけ、みたいなものが多いのですが、ペット・ショッブ・ボーイズはクラブ・ミュージック的なサウンドにポップな歌をのせて80年代から現在まで無数のヒット曲を放ってきました。

2009年、スペイン・バルセロナにて Photo: patchattack
北中さん:ディスコ・ミュージックの進化形といった面もあって、ヴィレッジ・ピープルの「ゴー・ウェスト」をカヴァーしたこともあります。
全英ナンバー・ワンが「ウェスト・エンド・ガールズ」「イッツ・ア・シン」「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」(ブレンダ・リーのカヴァー)「ハート」の4曲です。「ウェスト・エンド・ガールズ」はアメリカでも1位になりました。
店番 :彼らの曲のメロディはウェットな哀愁味のあるものが多くて、親しみやすいですよね。

ペット・ショップ・ボーイズのヴォーカリスト、ニール・テナント Photo: Maltesen
ダンスや映像などヴィジュアルにこだわったステージに定評が
北中さん:その点はイギリスのロックやポップ・ミュージックの伝統を受け継いでいる感じがしますね。ただしサウンドはロックやR&B的なものでなく、エレクトロニックなクラブ・ミュージックの手法で作られています。ロックンロール嫌いの理由を説明した曲まで発表したことがあります。
もうひとつ見逃せないのはヴィジュアル面です。
店番 :コスプレとかファッションですか?

独特な美意識を反映したライブの演出に定評アリ Photo: Vladimir
北中さん:はい。より正確に言うと、ジャケットのアート・ワークからビデオの映像まで、凝った作品が多いんです。また、ライヴでも演劇、ダンス、オペラ、映像、照明などの要素の組み合わせが観どころになっています。本人たちは踊りまくるわけではないんですが、音楽の内容をふくらませた豪華な演出が観ものです。
店番 :目でも楽しめるコンサートなんだ…。
北中さん:彼らのツアーには、1989年に映画監督のデレク・ジャーマンが演出した頃から、いつも有名な演出家が関わっています。新国立競技場のコンペで話題になったザハ・ハディッドが舞台芸術を担当したこともありました。

Photo: Ben Sutherland

Photo: chinnian