『こんなものを買った』PIONEER F-8800X

『こんなものを買った』PIONEER F-8800X

いまでは高精度のエアバリコンは製造されていません。といってエアバリコンを使ったチューナーが高価で取引されているか、というと必ずしもそうではありません。今回手に入れたパイオニアのF-8800Xはなんと500円でした!


今はなきエアバリコンの味を格安で楽しむ

最初にお断りしておきますと、このF-8800Xは銘機と呼ばれるものでも、高級機でもありません。むしろ3万8000円と普及クラスのモデルです。

ではなぜ今回手に入れたか、というとべらぼうに安かったからです。「ヤフオク!」でなんと500円。開始価格で落札してしまいました。出品者の方にむしろ申し訳ない……。


そもそも「安いエアバリコン機はないかな」とヤフオク!をつらつらと眺めていたときに偶然発見。程度も良さそうで、動作品と書かれているのに500円は破格といえましょう。

チューナーの仕組みとしては、電波を捉えるフロントエンドにおいて周波数を選ぶための仕組みとして、バリコン(バリアブルコンデンサー)とシンセサイザー(電子式)があります。それぞれ一長一短ありますが、音の良さはバリコン、それもエアバリコンに限る、と言われています。

しかし、いまでも単品コンポのチューナーはありますが、エアバリコンはありません。
というわけで「ヤフオク!」の出番、となるわけです。

スタンダードクラスの4連バリコン

さて、エアバリコンといえば『5連』だの『7連』だのという言葉が思い出されます。

パチンコか麻雀の用語のような音が男のロマンを感じさせますが、これはバリコンの連数です。もちろん多い方が高性能(だと思います)。「コントロール幅が広がる」とか「容量が増える」とか言われますが、だからといって、なぜ多い方が高性能なのか、と言われると正直分かりません。ただクルマのように「4気筒より8気筒の方が高級」といった価値観なのかな、と。


ちなみにチューナーの雄、トリオ(ケンウッド)では1978年のKT-9900で9連を実現しましたが、その後はL-01TやL-02Tなどフラッグシップでも7連になっているところを見ると、多ければ多いほどよい、というものでもなさそうです。単品チューナーでも大多数は3~5連でした。

そのエアバリコンですが、1980年前後から急にシンセサイザーチューナーが増えます。そして1984年頃にはほぼ全数がシンセチューナーになりました。しかし、以前トリオでチューナーの開発・設計をされていた方にうかがったところ、音だけで言えばエアバリコンの方が良いとのこと。
ただエアバリコンの供給元(アルプス電気など)が生産終了を示唆してきて徐々にシンセにスイッチしていったようです。

写真はアルプス電気が生産終了を記念して作ったものだそうです(トリオでチューナーの開発・設計をされていた方に見せていただきました)。まるで工芸品のような美しさです。ただ作るのは大変そうですね……。

こんなエアバリコンをいくつも連ねたフロントエンドを持つチューナー、欲しいですよね!

4連ではあるけれど

ようやく落札したF-8800Xのハナシになります。

F-8800Xは1978年のモデルです。FMの多局化が話題になっていた頃のモデルで、フロントエンドは4連バリコン。RF増幅部にはMOS FETを採用しています。A-8800Xと組み合わされるチューナーで、8800シリーズとしては3代目にあたるモデルでした。

前述のとおり3万8000円は普及機としての位置づけ。しかもパイオニアとしては、急速にシンセサイザーチューナーに舵を切り始めた頃で、多連バリコン機としては最後の方と考えて良いでしょう。
1979年にはF-D7、1982年にはF-120とシンセチューナーの銘機を立て続けに発表していますから。


さて、チューナーを楽しもうと思ってハードルが高いのは、なんといってもアンテナが必要なことでしょう。
といっても、屋外アンテナを立てるのも大変なので、おなじみフィーダーアンテナの出番です。

今どきのチューナーだとF型プラグが標準的ですが、この時代だとまだフィーダーアンテナを直につなげます。
フィーダーアンテナは300Ωなので、2本締め付ければOK。
あとはフィーダーアンテナの本体をしかるべきところに固定すれば完成です

……がしかるべきところってなんだろう?

じつは深いフィーダーアンテナの世界

ためしに「フィーダーアンテナ」を検索ワードに入れてググってみましょう。

まあまあの数がヒットします。その中にエムアイティー株式会社さんのホームページがありますが、『電線雑談』と名付けられたページがすごいです。ここを読むと(文系の私にはもちろん理解できませんが)フィーダーアンテナがじつはものすごく考えられたものだということがわかります。

フィーダーアンテナは正確には『半波長折返しアンテナ』という方式らしく、長さから導体の太さまできっちり計算されたものだそうです。

もっともこのページによると、私が使おうとしているフィーダーアンテナは計算によると同調周波数は69MHzになってしまい、日本におけるFM放送の帯域からハズレてしまうそうです。

とはいえ手元にあるアンテナはこれだけ。まあダメ元でやってみよう、ということでアンテナをつなぎます。スイッチを入れ、TFMに合わせます。アンテナ本体はまだくしゃくしゃになって床に落ちてます。


が、バッチリ同調してます!
いつもラジコで聴いてますが、それよりもずっと伸びやかで澄んだ音がします!

試しにアンテナを両手で広げ、向きを変えてみます。

TFMはまだ東京タワーから放送されてますが、ステレオ時代の試聴室からみると東京タワーもスカイツリーもほぼ北東方向。おそらく北東と南西に向けたときが一番良いのかと思いきや、北西と南東だろうと、丸めて床に放り出そうと、受信状況はほとんどかわりません。

そういうことなら壁に貼り付けるのがスマートだろう、ということで、とりあえず空いていた壁にテープで貼ってみました。うーん、快適。

艶っぽい音がします

私は世代的にデジタル・オーディオが大好きです。CDはいまだに『夢のデジタル・レコード』だと思っています。それでもあらためてアナログのレコードを聴くと、滑らかで生々しい音に感動してしまいます。多少の面倒くささやパチバチノイズを我慢しても愛好する方が多いのもよくわかります。

シンセチューナーとバリコンチューナーの違いもそんな感じかな。
簡単にバチっとチューニングできるシンセチューナーに間違いはありません。でも、とくに最近のチューナーのあっさりした音に比べると、このF-8800Xの生音感はすごい!

チューニングダイヤルをスルスルっと回して(この感触がたまらない!)、耳を頼りに周波数を合わせます。けっこう広い範囲で合うので、あまり気を使う必要はありませんね。

カタログによると『±400kHzの範囲で強力な引き込み能力があり、常に安定した受信状態を保てます』と書いてあり、確かにそのとおり、シビアなチューニングなしで気軽に使えます。

さらにF-8800Xには『タッチセンサー&サーボロックシステム』が内蔵されていて、放送局をキャッチした時点で手を離すと自動的にその周波数をロックするそうです。昔のチューナーってすごい…。

このチューナーは試聴室においてあって、場合によっては何週間も電源を切ったまま放置することがあるのですが、久々にスイッチを入れても、以前合わせた局にバッチリ合ったままでした。留守録でのエアチェックには必要な機能だったのでしょう。

たった500円でこの音が楽しめる、エアバリコンのチューナー、良い買い物でした。

ゴールデン横丁の仲間たち | 澤村 信(さわむら まこと)

https://goldenyokocho.jp/articles/675

かつてのオーディオブームを体験した世代にはたまらないムック本『ステレオ時代』(ネコ・パブリッシング)の編集長。ゴル横会長たっての願いを快く受け入れ、オーディオ愛あふれるコラムをゴル横に書き下ろしていただくことになりました!

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