『大人の秘密基地』を作ろう! プロローグ

『大人の秘密基地』を作ろう! プロローグ

オーディオをたしなむ者の夢は「自分のオーディオルームを持つこと」というところに行き着くでしょう。とはいえ自宅の一室を占領することの難しさは昭和世代の中年男性にとって、非常に難しい、ということはよーく分かっております。そこで自分だけの『秘密基地』をDIYで作ってしまおう、というプロジェクトの始まりです!


築50年のオンボロ長屋をリスニングルームに改造するというのはどうだろう。

「自分だけの秘密基地」とか「リスニングルーム」とか言ってしまうと少々語弊があるかもしれません。なぜならそこは会社が借りている倉庫(代わりのボロ屋)で、作ろうとしているのはステレオ時代の試聴室なのですから。しかし超低予算のステレオ時代ならではのしょぼい感じのDIYは、もしかしたら個人で作るより制約が多いかもしれません。極端なハナシ、釘一本、板一枚まで経理の目が光っているのですから。「1円たりともムダ金は使わせない」そんな雰囲気とプレッシャーの中での無謀な挑戦なのですから。

幾度もの挫折の果て

ステレオ時代も号を重ねるごとにメーカーの試聴室を訪れる機会も増え、さらに音楽之友社の「Stereo」誌とコラボ企画をやるようになって、Stereoの試聴室も使わせていただくことも何度もありました。そんななか「オーディオ誌の端くれとして、試聴室くらいはほしい」と思ってしまったのは仕方がないことといえるでしょう。

そもそも、なんとか上司と総務と経理をうまいことごまかして、試聴室を作れないか、と画策し始めたのは昨年の夏のこと。埼玉の奥地から八王子、神奈川の山の方……。探せば築年数の古い一軒家は月2万円くらいで借りられます。しかも古い家だと「リフォーム可」「原状復帰の必要なし」というところもけっこうあります。

「機材も増えたし、郊外に倉庫を借りたい」と本当の目的はふせたまま稟議書を上げてみました。月2万円と、都内のトランクルームより安いということもあり、稟議は順調に上へ上へと登って行ったのですか、最後の難関、総務で「これって家ですよね。一編集部のために家を借りることは許可できません」という理由であえなく頓挫。その後もことあるごとにチャレンジしたのですが、なかなか総務を説き伏せることができず、その度に撃退され続けました。

 *  *  *

最大のチャンスが訪れたのは昨年12月のこと。社屋の移転を3ヶ月後に控えた頃のことでした。新しい社屋はオフィスビルの一角で、圧倒的に物置スペースが不足していたのです。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、弊社はクルマ雑誌や鉄道雑誌、クルマや鉄道の模型雑誌など、かさばる荷物が溜まりがちな編集部が多数あります。そうした荷物の置き場として倉庫を借りることになったのです。といってもケチケチなウチの会社のこと、いったいどんなところを借りるのかと思いきや、場所こそ環八沿いと都内23区内ではあるものの築50年くらいの棟割長屋。外観は完全に廃屋ですが、2階建てのメゾネットとか言っちゃう?という感じです。荷物を置く場所はほぼ早いもの勝ち的な流れで、一階の入り口近くから埋まって行きました。


そんな流れの中、いち早く荷物を運び込んだステレオ時代は、あえて2階、しかも2間あるうちの大きい方(もちろん両方和室です)を実効支配していきました。スチールラックを持ち込み、陣地を広げるようにダンボールを積んでいきます。まずは倉庫として運用し、折を見てリスニングルーム(つまり『秘密基地』です)作りに踏み切ろう、という作戦です。

この時点ではまだ電気が通っておらず、雨戸も締め切りなので真っ暗。キャンプ用のLEDランタンが唯一の光源です。
広さは6畳ですが、押入れが1畳分、2段ありますので、整理すればまあまあ使いではあります。
「うん、これなら行けるな」ということで、いよいよ『ステレオ時代・大人の秘密基地』作戦の発動です。

そもそも倉庫なんだから

とはいえ、そもそもは会社が倉庫として借りた物件。「荷物さえ置ければいい」ということで妥協に妥協を重ねた末にたどり着いた物件です。そのまま『秘密基地』化するのは相当無理があります。


ここで問題点をまとめてみましょう。

① 他部署との共用スペース
② 電気も水道も通っていない
③ 築50年の和室
④ 予算がない
⑤ 人手がない
⑥ 暇もない

といっても③はむしろメリットで、気兼ねなくいじり倒すことができるし、④~⑥はそもそも独自にスペースを探していたときから覚悟のうえでした。問題は①と②です。

とくに①は正攻法で行くしかありません。そう稟議です。会社に対し正面から申請し、もしリジェクトされるようなら、その理由をひとつひとつ潰して行く覚悟です。

まず直属の上司である事業部長に相談しました。「あのう、倉庫を試聴室にしたいのですが……」。一瞬間があって、次の瞬間爆笑。「本気ですか!? いやあ、あれはどうにもならないでしょう」。渋るというよりも、ホコリだらけの廃屋での作業で、体を壊されては困るという理由でした。

ただオーディオ誌を作るうえで必要であり、『基地』化する過程も記事にするので、と説得を重ね、ついに「うーん。稟議書にハンコは押すけど、あとは総務と上層部の判断かな」と許可をもらうことに成功。稟議書の内容は以下のようなものでした。

●倉庫2階の6畳間を専有
●電気の開通
●リフォームの許可

その後総務より、「リフォームにはいくらくらいかかるのか」と問い合わせがあり、「DIYでやるので数万円で収まります」と答える、というやりとりがあったものの、それ以外はとくに疑義はなく、稟議はするりと通過。


いよいよ『基地』化作業に着手することが決まったのでした。

この時点で、2018年6月になっていました。

廃屋に電気を通すということ

まず、作業に先立ちやることがありました。電気を通すことです。

といっても電気をどのようにすれば良いかまったくわかりません。とりあえずホームページで電力会社を探します。最近の電力自由化ブームで東京電力以外の電力会社も多く、ネット対応はむしろ新しい電力会社の方が積極的でした。

今回のように日々そこで暮らす、というよりも月に数回使う、というような場合、東電よりも安い会社があります。さっそくそちらにメールで相談してみると、開通の業務は行っていない、という返事が。開通は東電に頼んでほしい、ということでした。

やむなく東電に電話。これがまあ繋がらない繋がらない。こちらも通常業務の合間に連絡しているので、結局電話が通じるまで2~3日かかりました。

やっと通じたと思ったら、電気を通すまで一悶着あったのですが、まあ細かいことなのでそれはいいとして、メーターの交換やブレーカーの交換などを経て、ようやく電気が開通。

これで昼も夜も作業ができる環境となりました。

1階は荷物がパンパンになり、だんだん2階に他部署の荷物も進出してきました。
稟議書出しておいてよかったー。

急峻な階段を登った先に、堂々と「ステレオ時代の企画でリフォーム中です。6畳間に荷物を置かないで下さい」と掲げておきました(笑)
さていよいよ次回からリフォームが始まる……のかな?

(本記事はステレオ時代にて掲載いたしました『成るか念願の試聴室』関連の記事を改題のうえ大幅に加筆修正したものです)

ゴールデン横丁の仲間たち | 澤村 信(さわむら まこと)

https://goldenyokocho.jp/articles/675

かつてのオーディオブームを体験した世代にはたまらないムック本『ステレオ時代』(ネコ・パブリッシング)の編集長。ゴル横会長たっての願いを快く受け入れ、オーディオ愛あふれるコラムをゴル横に書き下ろしていただくことになりました!

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