『こんなものを買った』AKAI GX-93

『こんなものを買った』AKAI GX-93

ステレオ時代では取材に使用した機材で編集部所有のものの多くは読者プレゼントとして放出してしまいます。ですが、どうしても手元に置いておきたい機材というのも少なからずありまして。このアカイGX-93もその1台でした。


アカイ GX-93

キョンキョンが艶かしく聴こえます

ステレオ時代Vol.10で「カセットデッキ御三家OB座談会」という企画を行いました。ナカミチ、ティアック、アカイというデッキ専業メーカー(正確には違いますけど、そんなイメージですよね?)のOBの方にお集まりいただき、当時のことを『時効』ということで語っていただこうという企画でした。
その際、アカイのOBとしてご参加いただいた富樫研介さんが現役時代に手がけられた機種、ということで購入したのがこのGX-93でした。
なぜGX-93を読プレに出さなかったのか。それはとてもカッコ良かったからなのです。スリムなフロントパネル、ツマミやスイッチは最小限。このGX-93が現役だった1986年頃、私は高校生。ちょうど生涯初のCDプレーヤーを手に入れ、次はデッキを買おうと雑誌とカタログを読みまくっていた頃です。
GX-93ももちろん候補ではありましたが、バイアスは手動でテストトーン機能もないという玄人向けの部分で二の足を踏み、結局素人でも使いやすいソニーを買ってしまったという経緯があります。
ちなみに高校生の頃友人だった杉浦くんがGX-9を先に買ってしまい、同じアカイが選びづらかった、というのもGX-93を選ばなかった理由のひとつでした。そういうのってありますよね?
さてそんなGX-93。手放し難くて取っておいたものの、正直な話、音を聴くのはVol.10の取材以来です。さて、どんな音でしょうか。さっそく秘蔵のキョンキョンのミュージックテープをかけてみます。

ミュージックテープ

珍しいキョンキョンのオールディーズのカバーが入った「SEPARATION KYOKO」という2本組みです。当時予約して買った覚えがあるのですが、度重なる引っ越しの中で無くしたか捨てたか…。これはメルカリで買い直したものです。フォトカードは欠品してましたがテープそのものには問題なし。
『今はもうむかしの私と違うレディーよ~♪』
生々しい歌声にうっとり。あの頃の憧れがフラッシュバックしてきます。

アンダーバイアスの魔術

さきほどお話した「カセットデッキ御三家OB座談会」企画でアカイのカセットデッキの高音がなぜ伸びるか、ということについて富樫さんはこう語っていらっしゃいました。
「ティアックの高須さんにお話を伺う機会があって(中略)バイアスのかけ方がピーク値を越えてオーバーバイアスになっている。だから高域は丸くなる。けれど多少走行が乱れても(中略)安定した音が出るのだよ、と聞きました。(中略)アカイは逆で、ピークを+0.5落ちたところでバイアスが落ち着くように設定していました。ただ、だからこそテープの走行が大事で、ちょっと狂えばめちゃくちゃになっちゃう。そういう、メーカーとしての考え方の差は歴然としていますね」
つまり安定を取ったティアックとピーク性能を取ったアカイ。走行が安定している限り、歪ギリギリまで高域が伸びるGX-93は、だからキレイな音が出るんですね。その姿勢は人によっては「ズルい」と捉えるか「挑戦的」ととらえるか。でも、このキョンキョンは最高です。
あとアカイといえば型番にもなっているGXヘッド。

GXヘッド

これも富樫さんの言葉をお借りすると「ガラスのように固くて摩耗がほとんどない。ただ欠点は固いがゆえに加工が難しい。例えば再生ヘッドでいえば、最終的には1μくらいのギャップのヘッドが完成したのですけど、それまではなかなかできなくて、けっこう歩留まりが悪かったのです」というものでした。
この耐久性の高いヘッドは、アカイがデッキから撤退して20年以上経つ今でも愛好家が多いことでもわかるように、カセットデッキ史に燦然とその名を刻んでおります(GX自体はオープン時代からですけど)。
そこにクォーツロック・クローズドループダブルキャプスタンという鉄壁の走行が加わり、この高性能が維持されているわけです。

カセットデッキ戦国時代の音

さてOB座談会の時の意見として、カセットデッキの全盛期は、ナカミチDRAGONが完成した1982年から各メーカーが底上げされた1985年くらいだろう、ということに落ち着きましたが、このGX-93はその直後、ほぼ全盛期のモデルと考えて差し支えないでしょう。
OB座談会にティアックOBとしてご参加いただいた宮本啓之さん曰く「直径たった2~3mmのキャプスタンを回して、ほとんどスリップのない状態で何にも記録してない『紐』を0.0何パーセントという誤差で送るなんて、とてつもないスペックなんです」とのことですが、確かにこの性能、『異常』と言っていいほど常軌を逸してます。当時ターンテーブルもそうですが、ワウフラはゼロコンマゼロいくつ、というのが基準でした。今考えれば「もう一桁くらい落としても…」と思いますが、日本人の気質なのでしょう、行けるところまで行かないと気が済まない。そしてユーザーも妥協を許さない、という…。このGX-93もワウフラは0.025%以下(WRMS)。当時のオーディオメーカーは信じられない高みでスペックを競ってました。
さて、その実力を味わうべく、録音をしてみましょう。
音源はEP盤の「いい日旅立ち」をテクニクスSL-MA1で再生したもの。テープは試聴室に転がってた90年代のデンオンの安いテープ。NRはオフです。
ちなみに試聴室のリファレンス、ローディDL-17で録音した時は、レコードのワウにデッキのワウも重なり、すっと伸びるはずの音が波打って聴こえたものです。
ところがGX-93では、レコードの再生音とまったく区別がつきません! 

アカイ GX-93

厳密にいえばバイアスも未調整、レベルも適当なので、聴き分けができないわけではないのですが、劣化している感じはしません。
1986年のデッキなので、すでに30年以上も前の機械です。それがしっかりと動く事自体が驚異なのに、この音。
シリコンオーディオ全盛の時代にあって、カセットテープはその存在意義を失った感はありますが、実力としてはいまだ一線級。なんとなくですけど、メモリやHDDの楽曲データを削除する日が来たとしても、カセットテープは残っているような気がします。

ゴールデン横丁の仲間たち | 澤村 信(さわむら まこと)

https://goldenyokocho.jp/articles/675

かつてのオーディオブームを体験した世代にはたまらないムック本『ステレオ時代』(ネコ・パブリッシング)の編集長。ゴル横会長たっての願いを快く受け入れ、オーディオ愛あふれるコラムをゴル横に書き下ろしていただくことになりました!

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